親の介護と仕事の両立は可能なのか――。政府は介護離職防止を掲げていますが、現実には仕事を続けながら親を支える人たちが限界まで追い込まれるケースも少なくありません。介護離職もしていない。介護サービスも利用している。それでも実母を残して家を出る決断をした48歳独身男性。その選択の裏側にあった、見えにくい介護の現実を追います。
お願い、置いて行かないで!〈年金月13万円〉泣き叫ぶ72歳母を払いのけ、48歳長男が実家を出た理由

長男「もう無理、限界」…物理的に離れるしかなかった

決定打は悦子さんの一言でした。ある夜、妹夫婦が帰ったあと、悦子さんは当然のように言いました。

 

「健太がいるから安心ね」

 

その瞬間、健太さんは聞いてしまいます。

 

「もし俺がいなくなったら?」

 

悦子さんは答えました。

 

「そんなことあるわけないじゃない」

 

悪意はなかったのでしょう。だからこそ苦しかったといいます。

 

――母もきょうだいも、自分が長男としての役割をおりないと当然のように思っている

 

翌月、健太さんはアパートを借りました。家賃7万8,000円のワンルーム。ただ、何かあったときにすぐに駆けつけることのできるぎりぎりの距離。引っ越し当日、悦子さんは泣きました。

 

「お願いだから行かないで」

「私はどうすればいいの」

 

それでも健太さんは、悦子さんの手を払いのけ、荷物を積みました。

 

「もう無理。このまま仕事を続けることはできない」

「お前らは、俺の老後の面倒をみてくれるのか?」

「来月、家を出るから、今後は2人で母さんをみて」

 

前もって妹と弟を呼び出し、そう告げました。2人は騒然となりました。

 

「急すぎる」

「無責任だ」

「長男でしょ」

 

次々と言葉が飛んできたそうです。健太さんは静かに答えました。

 

「もう限界なんだ」

 

現在、悦子さんは妹と弟が交代で対応しています。しかし関係はぎくしゃくしたままです。呼び出されれば駆けつけたり、手続きの相談に行ったりなど、健太さんも完全には離れられたわけではありません。それでも実家にも戻ることはないといいます。

 

「母のことは何も解決していません。ただ一人で答えを出すことはやめました。きょうだい3人で答えを出さない限り、今の状態が続くんでしょうね」