長男「もう無理、限界」…物理的に離れるしかなかった
決定打は悦子さんの一言でした。ある夜、妹夫婦が帰ったあと、悦子さんは当然のように言いました。
「健太がいるから安心ね」
その瞬間、健太さんは聞いてしまいます。
「もし俺がいなくなったら?」
悦子さんは答えました。
「そんなことあるわけないじゃない」
悪意はなかったのでしょう。だからこそ苦しかったといいます。
――母もきょうだいも、自分が長男としての役割をおりないと当然のように思っている
翌月、健太さんはアパートを借りました。家賃7万8,000円のワンルーム。ただ、何かあったときにすぐに駆けつけることのできるぎりぎりの距離。引っ越し当日、悦子さんは泣きました。
「お願いだから行かないで」
「私はどうすればいいの」
それでも健太さんは、悦子さんの手を払いのけ、荷物を積みました。
「もう無理。このまま仕事を続けることはできない」
「お前らは、俺の老後の面倒をみてくれるのか?」
「来月、家を出るから、今後は2人で母さんをみて」
前もって妹と弟を呼び出し、そう告げました。2人は騒然となりました。
「急すぎる」
「無責任だ」
「長男でしょ」
次々と言葉が飛んできたそうです。健太さんは静かに答えました。
「もう限界なんだ」
現在、悦子さんは妹と弟が交代で対応しています。しかし関係はぎくしゃくしたままです。呼び出されれば駆けつけたり、手続きの相談に行ったりなど、健太さんも完全には離れられたわけではありません。それでも実家にも戻ることはないといいます。
「母のことは何も解決していません。ただ一人で答えを出すことはやめました。きょうだい3人で答えを出さない限り、今の状態が続くんでしょうね」