※株式会社アーキテクト・ディベロッパーは、2026年5月1日付で「帝国不動産株式会社」に社名変更しました。
生活スタイルの変化がもたらすキッチンの「家具化」

風 間:キッチンの家具化が進む背景には、生活スタイルの変化があります。現在、キッチンで料理をする時間自体が非常に減っていると感じます。コロナ以降、自宅で料理をする人と、デリバリーやテイクアウトを活用する人との二極化が進んでいます。あまり料理をしない人にとって、キッチンは「空間の中で存在感がない方がいい」という意見もあり、この流れはある一定以上のニーズとして今後も進んでいくと考えています。
当社が手がけているリノベーション物件『Belleviage(ベルヴィアージ)』シリーズでは、家具化するキッチンとして、デザインや機能性に優れた壁付けキッチンや腰壁付きキッチンも多く手がけています。限られた空間を広く見せるために、あえて収納をなくしたり、目立たないようにレイアウトしたりするケースが多くなっています。
さらに、アイランド型はこれまで大きなサイズしかありませんでしたが、最近は各メーカーから幅の狭いコンパクトなものが販売されるようになってきました。そうしたプロダクトを採用することで空間がより広く見え、LDK全体に一体感がある空間づくりを実現しています。
このように、世界のトレンドを追いかけながら実際の物件に取り込んでいます。図面上だけでは分からない部分も多いですが、実際にお部屋に足を運んでいただくと、全体がすっきりとしていて「何かちょっと違うな」という質の高さを、皆様に実感していただけているようです。
「テレビ中心」の空間からパーソナルな過ごし方へ

風 間:前回、ソファの形状が変化しているというお話をしましたが、その形状変化からライフスタイルの変化を読み解くことが重要だと思っています。これにはやはり「テレビの存在」が大きく影響していると考えています。
これまではどうしてもテレビに向かってソファを配置することが多かったと思いますが、現在は個人がモバイル端末を持ち、それぞれの生活スタイルに合わせて集中して別のことをやっています。同じ空間に集まってはいるものの、過ごし方はパーソナルであるという状況です。
そのため、従来の直線的なソファに比べ、湾曲しているものや角度のあるソファは、今後コンパクトなサイズが展開されればニーズがあるのではないかと思います。これから新しい設計をしていく際には、コンセントの位置やテレビ端子の位置などがまったく変わってきます。したがって、このライフスタイルの変化をしっかりと追っていくことで、私たちの設計やデザインに反映させていきたいと考えています。
当社は賃貸の設計だけでなく管理も行っているため、テレビのあり方に対して実際に皆様がどのような要望を持っているのかは常に追いかけています。昨年はアンケート調査で「どのくらいテレビボードが使われているのか」という点も調べました。
そうしたリサーチを重ねるなかで、だんだんとテレビボードが必要なくなってきていることや、テレビ自体をあまり見なくなってきているのではないかという傾向が見えてきます。これらを調べながら実際の物件の設計に活かしています。また、建築から10年、20年が経ち、リフォームやリノベーションを検討されるお客様に対しても、「調査の結果から、現在の入居者のニーズはこのように変化していますので、今回はこういうリノベーションにしましょう」といった具体的な提案の材料としても活用しています。
木 本:リビングを見渡してみても、もはやテレビを中心に空間を組み立てていない家も多いのではないかと思います。最近では、リビングにテレビを置く代わりに、シアタールームも人気です。家族それぞれがiPadやスマートフォンを操作し、一緒にテレビを見たり、チャンネルを取り合ったりすることが減っているのに、テレビを置くとどうしても空間全体が「テレビを見るための配置」になってしまいます。これを置かなくてよくなれば、より家族が対面して団らんしやすいレイアウトにできます。実は私自身も今、自宅のテレビの配置に少し悩んでいまして、「またレイアウトを変えようかな」と思っているところです。
リノベーションで取り入れたい「水回り」と「照明」のトレンド

風 間:私たちは、リノベーション事業も非常に重要な主軸として手掛けています。その中で、ご入居されるお客様が最も重視して見られるのはやはり「水回り」です。そのため、水回りのトレンドについては特に深く追うようにしています。
その中のひとつは先ほどお話ししたキッチンの進化です。そして、洗面化粧台に関しても女性のニーズが非常に高い場所ですので、ここにも新しいデザインや機能を取り入れていきたいと考えています。
あとは「照明」です。新築で戸建てなどを建てる時は、生活の時間帯に合わせて照明の色(赤みのある暖色や白っぽい昼白色など)を自動的に変えられるシステムなどがあります。
また、よくあるのは光の量を絞ったり明るくしたりする調光です。実は光のコントロールは、人間の目の疲れに大きく影響します。夜の時間帯などは特に顕著です。海外で長く生活されている人の住まいを拝見すると、夜は天井に付いている主照明をほとんどつけていないケースが多いです。天井からの強い光は直接目に入ってきてしまうので、どうしても疲れてしまう。そのため、視線より低い位置にあるスタンドランプなどを上手く使っていて、海外の方たちは「光」というものを非常に深く考えているなと感じます。
日本には古来、外から入ってくる自然光に対して障子を用いて部屋の中に絶妙な光の調整を行う奥ゆかしい文化がありました。これからは、室内における人工的な照明に対してももう少しフォーカスを当てて、新しい取り組みをしていきたいと思っています。
進化するマテリアルミックス

風 間:今年現地で目立った「マテリアル(素材)」の最新トレンドとしては、ガラスやタイル、そしてメタル(金属)が新しく台頭してきている印象を受けました。表面に独特の「ゆらぎ」があるガラスであったり、メタルに関しても単につるっとした無機質なものではなく、表情豊かな質感のものが多く出てきていると感じます。
そして、「異なる素材をミックスする」というのは、やはり今年も定番のトレンドです。たとえば、リビングの空間を構成する際に配置するセンターテーブルがあります。日本の一般的なご家庭だと、真ん中に大きなテーブルを1つだけ置くことが多いと思います。しかし現在のグローバルトレンドでは、サイズや高さが少しずつ異なる複数の小さなテーブルを、重ね合わせるようにして複数配置するスタイルが主流になっています。
今年さらにその見せ方が進化していると感じたのは、重ね合わせるテーブルそれぞれの「天板の素材」をあえて変えている点です。天板には大理石や木を使っているけれども、それを支える脚には金属やガラスを組み合わせている、といった具合です。こうした素材の巧みな掛け合わせは空間に奥行きを与え、本当に見ていて飽きないプロダクトだと思います。
家具の世界に進出するファッションブランドと不動産の未来

風 間:展示の手法という観点で見ても、単に完成した家具を綺麗に見せるだけでなく、空間そのものを使ってブランドの世界観やストーリーを表現する「インスタレーション」の形をとるブランドが非常に多くなってきています。また、もう一つの大きな流れとして、ハイエンドなファッションブランドが家具の世界へ本格的に進出してきていることが挙げられます。アルマーニ(Armani)などが何年も前からホームコレクションを手掛けていますが、その流れが今、さらに加速していると感じます。
木 本:ファッションブランドが家具を手掛け、そのビジネスがさらに進化していった先には、最終的に「不動産(レジデンス開発)」がありますからね。最近では、海外でも『ポルシェ・マンション』などが大きな話題を集めています。ブランド側からすれば、自分たちが高い家賃を払って一等地に店舗を構えたり、洗練された空間を作ったりすることで、結果的にその街やエリア全体の価値が上がるのであれば、その上がった価値(リターン)を単なる借主としてではなく、不動産の権利として自分たちも享受したいというビジネス戦略があるのでしょう。
LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループなどはまさにその筆頭格です。彼らが一等地のビルにテナントとして入る(リースする)のであれば、「その不動産の権利の一部、あるいは全部を私たちにください」というようなダイナミックな交渉を行う時代にシフトしてきています。非常に戦略的で面白い動きですよね。
ただ、私たちのように実務で空間をつくるデベロッパーの視点から見ると、やはり長年にわたって家具という一筋の領域で勝負し、歴史と技術を積み重ねてきた老舗家具メーカーのプロダクトには、一朝一夕には真似できないクラフトマンシップや、圧倒的な座り心地の良さがあると感じます。ファッションブランドが参入すればすぐに市場を席巻できるかというと、決してそんな簡単なことではないのではないか、とも思っています。
風 間:そうですね。私たち帝国不動産が新しいディベロップメント(開発)やデザインを企画する時は、単に表面的な流行り(トレンド)だけを追いかけることはしません。先ほどお話ししたような、地道な入居者アンケートの調査結果なども複合的に使いながら、そのトレンドの裏に一体どのような生活者の意識変化やライフスタイルの変化が潜んでいるのかを徹底的に分析しています。今目の前にある流行が、時代の進化に伴う「本当の変化」なのか、それとも一過性のブームに過ぎないのか。そこをプロの目できちんと見極めることこそが、私たちがこれからの不動産開発を行う上で、最も重要なことであると考えています。
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帝国不動産株式会社
代表取締役社長 木本 啓紀
ゴールドマン・サックス証券株式会社アジア・スペシャル・シチュエーションズ・グループに18年間在籍。ローン債権、債券、不動産、エクイティ、証券化商品、オルタナティブなどあらゆるプロダクトを対象とした投資業務を経験。その後、ソフトバンクグループ株式会社に転じ引き続き投資業務に従事。2019年9月 当社取締役に就任。その後、ソフトバンクグループを退職し、2021年9月 代表取締役CEOを経て、2025年7月代表取締役社長に就任、現在に至る。

