不動産業界が直面する「後継者不足」と「DXの壁」

佐 藤: 昨今の不動産業界では、特に「後継者不足」が顕著です。核家族化も要因のひとつですが、家業として代々引き継いできたものを、お子さんがサラリーマンとして都心へ出たり、実家を継ぎたくないと考えたりするケースが増えており、深刻な社会問題になっています。M&Aの活動を始めてからも、仲介会社の方から日々、後継者不在を理由としたご相談をいただきます。売主様が重視されるのは「会社の継続」です。会社を畳むことになれば、管理物件の行く末や従業員の雇用が守れなくなるからです。
木 本:中小企業の事業承継は大きなテーマですが、その一類型として、私たちが取り組んでいるような地場の不動産会社の承継問題があると考えています。仮に、地場で1,000戸ほど管理している大きな不動産屋さんの跡取り息子だったらと考えると、中長期的に今の戸数を維持し、DXやAI化への対応、人手不足のなかでの雇用、設備投資などを単独でやっていけるか。正直、かなり苦しいなと感じる人が多いのではないでしょうか。
佐 藤: まさに「DX」は事業承継において直面する課題のひとつです。多くの中小企業はアナログな手法で運営されていますが、一方で大企業はIT投資を行い、サービスクオリティに格差が生まれています。この穴埋めには知識だけでなく資金力も必要です。後継者がおらず、DX投資もできないという「どん詰まり」の状態にある企業が増えているのが実態です。
預かった資産を「バリューアップ」させるADIの強み

木 本:売主の方は、金額の多寡はもちろんですが、他にどのようなポイントを気にされていると感じますか?
佐 藤: どの案件においても共通しているのは、「お客様(オーナー様)をしっかり引き継いでほしい」、「従業員の雇用を継続してほしい」の2点です。
木 本:引き継いだオーナー様に対しては、安心感やこれまで以上にサービスを提供できる点をご説明するようにしています。
佐 藤: 賃貸管理業においてアナログな運営を続けていると、入居率が下がってしまうことがあります。弊社にはプロパティマネジメント部門に300名以上のスタッフがおり、日々のリーシングや管理でデータを活用し、入居率や賃料のアップに努めています。これまで取り組めなかったサービスを提供できるとお話しすると、オーナー様も非常に前向きに捉えてくださいます。
木 本:地場の管理会社さんは、トラブル対応や適切な修繕といった「ハードアセットとしての管理」には非常に注意を払っていますが、「稼働率を上げ、どのようなキャッシュフローを生むか」「所有者の資金状況まで配慮する」といった視点を持つ会社は多くありません。私たちが管理を引き受けると、稼働率がじわじわと上がることが多く、それは確実にオーナー様への還元に繋がっています。また、LINEベースのコミュニケーションなど、他業界では当たり前のデジタライゼーションを導入できる点も大きいですね。
佐 藤: 実際に事業承継させていただいた例では、弊社のウェルスマネジメント部からオーナー様へ「建て替え」などの資産バリューアップの提案をさせていただいた際、「そんな観点で考えたことがなかった」と喜ばれました。以前の管理会社には建築機能がなかったため、そうした提案ができなかったのです。単なるお付き合いでの管理から、資産をいかにバリューアップさせるかという提案へ。これがオーナー様の満足度向上と、売主様の「お客様を大切にしてほしい」という思いへの回答になっています。
なぜ競合他社ではなくADIが選ばれるのか

木 本: 管理会社の買収において、他社と競合するケースも多いですが、私たちは「デベロッパーとしての機能」を持ちながら管理を行っています。大手デベロッパーは自社開発物件の管理がメインであるため、意外とM&Aの現場で競合することはありません。私たちは管理の価値だけでなく、そこから派生する価値も見ることができるため、魅力的な条件提示や提案が可能です。
佐 藤: M&Aプロセスの「トップ面談(顔合わせ)」での印象が非常に良かったという感想を毎回いただきます。売主様の状況に寄り添った買収スキームを提案できるのは、弊社のM&Aチームに金融出身者が多く、通常の事業会社以上の提案力があるからだと感じています。また、弊社の事業構造として、プロパティマネジメント関連の収入で事業経費を賄えているという安定した収益基盤があります。「事業基盤が安定した会社に譲り渡したい」という売主様の安心感に繋がっている自負はあります。
買収後の苦労と「適材適所」の配置

木 本:買収後、いわゆるPMI(統合プロセス)での苦労はどうですか?
佐 藤: 企業文化の違いには当初苦労しました。弊社の平均年齢は30代と若いですが、地場の会社様は40〜50代がボリュームゾーンです。仕事のスピード感や、電子化されたコミュニケーションツールへの適応などで戸惑いもありました。しかし、現在はその方々の強みを活かせる部署や職務を考える「適材適所」の配置ができるようになっています。
木 本: 弊社に来てから、以前の2倍、3倍と活躍される方もいます。特に、オーナー様との強いリレーションがありながら、建築機能がなかったために提案ができなかった担当者が、弊社の機能を使いこなしてビジネスに繋げるケースは非常にうまくいっています。変化が苦手な方には難しさもありますが、テクノロジーによる業務の簡素化や「リスキリング」の機会を提供することは、ビジネスプロフェッショナルとして大きな意義があることだと思っています。
佐 藤: お客様(オーナー様)への対応も進化しています。当初はM&Aの経験が少なく説明が遅れることもありましたが、現在は9社をグループに迎えたノウハウが蓄積されています。最近では「オーナー説明会」を速やかに開催し、弊社の社員と直接交流していただく場を設けています。こうした取り組みにより、オーナー様の不安材料を解消できるようになっています。
1万7000戸の管理増、今後の展望

木 本:私が代表になって4年強で、管理戸数は3万9,000戸から5万6,000戸へと約1万7,000戸増加しました。そのうち約8,500戸がM&Aによるものです。今後の規模感はどう見ていますか?
佐 藤: 当初はスモールスタートでしたが、最近では6,000戸や1万戸近い規模の会社様からもお話をいただけるようになり、加速度的に増えている実感があります。
木 本:直近では上場企業の管理事業の一部売却を引き受けるケースもありました。数千戸単位の事業を単独で維持するのが難しくなっている証拠かもしれません。不動産管理会社の99%は管理戸数1万戸以下と言われており、今後は強烈な勢いで寡占化が進むでしょう。
佐 藤: M&Aはいかに「共に成長していくか」です。単純な買収ではなく、従業員、お客様、地域との関係性をしっかりと引き継ぎ、共に発展していくことを意識して、今後も進めていきたいと考えています。
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株式会社アーキテクト・ディベロッパー
代表取締役社長 木本 啓紀
ゴールドマン・サックス証券株式会社アジア・スペシャル・シチュエーションズ・グループに18年間在籍。ローン債権、債券、不動産、エクイティ、証券化商品、オルタナティブなどあらゆるプロダクトを対象とした投資業務を経験。その後、ソフトバンクグループ株式会社に転じ引き続き投資業務に従事。2019年9月 当社取締役に就任。その後、ソフトバンクグループを退職し、2021年9月 代表取締役CEOを経て、2025年7月代表取締役社長に就任、現在に至る。

