世界最大の家具・インテリアの国際見本市「ミラノ・サローネ(ミラノデザインウィーク)」。世界のトップクラスのデザイナーやメーカーが今何を考えているのかを直接肌で感じられるイベントです。今回は、帝国不動産株式会社(旧:株式会社アーキテクト・ディベロッパー)代表取締役社長の木本啓紀氏と、同社取締役執行役員CDOの風間三枝氏が、現地で目撃した最先端の住空間トレンドと、そこから紐解く不動産の未来についてお話しします。

※株式会社アーキテクト・ディベロッパーは、2026年5月1日付で「帝国不動産株式会社」に社名変更しました。

空間の「プレゼンス」が変える寝室の新たなレイアウト

木 本:今回のミラノ・サローネをデベロッパーとしての視点で見渡したとき、強く印象に残ったのが、家具そのものが空間において放つ圧倒的な「プレゼンス(存在感)」でした。「この家具を配置するためには、寝室にこれくらいの広さがないとちょっとバランス悪いな」――そのように、部屋の設計のあり方を家具の存在感から逆算して考えさせられるような、強い主役感を持った家具が数多く提案されていたのです。

 

たとえば、ベッドのレイアウトにおける最新トレンド。一般的な感覚であれば、部屋の壁面にヘッドボードをぴったりと寄せて配置するのが普通です。しかし今回目にしたのは、部屋のど真ん中にベッドが置かれている光景でした。ヘッドボードの裏側がそのままソファの背面になっているのです。ソファに腰掛けた視線の先にはテレビなどが配置され、くつろぎながら鑑賞できます。さらにそのソファは、通常よりも少しだけ座面が低い設計になっていました。

 

西洋の生活様式では室内でも靴を履くため、通常のソファはそれを前提に高さを決めているはずです。しかし、寝室でベッドから起きた流れのまま座るシーンを想定すると、人間は裸足である可能性が高い。そのため、あえて3〜5センチメートルほど低く作られているのでしょう。座面が低いために足が床にベタッと着き、実際に座ってみると心地よく感じられました。

 

このように、最先端の家具はリアルな生活シーンを緻密に想定して作られています。ただ、ヘッドボードの裏にソファを組み込み、その先にテレビを配置するような空間を創出するとなると、寝室の設計を根本から変えない限り不可能です。こうした空間の持つ革新性は、やはり現地のリアルな展示を直接この目で見ないことには伝わらないと強く実感させられました。

ミラノ・サローネから紐解く今年のトレンド…色、素材、形状

風 間:トレンドのキーワードとして、今回は色、素材、形状に絞ってお話しします。

 

まず「色(カラー)」はアースカラーが全盛期です。テラコッタや彩度の低いグリーン調、それらを取りまとめるベージュが多用され、すでに広く浸透してこれが「普通」になっている印象です。人々がリビングやダイニングといった日々の住空間に対して、安らぎや落ち着き、あるいは自然とのつながりをより強く求めてきているからだと感じ取ることができます。アウトドア家具でもベージュやテラコッタ、少しブラウニッシュな色合いが主流で、クッションなどもブラウンと薄い紅茶系のグラデーションにするなど、よりナチュラルな表現へと進化しています。アースカラーは飽きがこず普遍的なため、特に賃貸物件のオーナー様にとっても採用しやすいカラーリングです。

 

次に「マテリアル(素材)」ですが、ここ数年流行している椅子の張地「ブークレ素材(ループ状の生地)」に変化が見られました。今年はループの頭をカットし、より触り心地を良くした、触れたときの質感がしっとりとするものが主流です。その流れからベルベットや、柔らかいヌバックのような素材がメーカーを問わず登場しており、素材に対するユーザーの要求水準が一段上がったと感じます。「長寿命」というキーワードとともに、長く愛される素材への意識が明確に表れた年でした。

 

「フォーム(形状)」に関しては、直線的なソファからより曲線的なものへと変化しています。今年は部分的に角度を変えているようなデザインが多く、かつその角がすべてアール(R、丸み)になっており、丸みを取り入れた造形が目立ちました。これはテーブルや椅子の脚などにも共通しており、人気を集めています。直線的なデザインは空間における主張が強くなりがちですが、丸みを帯びることによって人への優しさのような表現に繋がり、住む空間がより人にとって安心できる方向へと向かっているのだと考えています。

 

120度角のソファが示す「贅沢の基準」

木 本:L字ソファでも、コーナーが直角ではなく「120度角」になっているものがめちゃくちゃ多かったですよね。

 

風 間:実際にコミュニケーションを取る時は、少し向きを内側へと傾けます。ですから、ソファ自体も真っすぐであるよりは、少し角度がついて内側を向いているほうが人間の行動としてより自然なのです。これまでは意外と少なかったこうしたデザインが、今後はだんだんと日本にも入ってくるのではないかと思います。

 

木 本:ただ、この120度角のソファは、部屋がかなり大きくないと置けません。直線的なものに比べて空間の無駄(デッドスペース)が多くなってしまうからです。先ほどのベッドの配置もそうですが、贅沢なものがさらに贅沢になり、超富裕層における贅沢の基準がもう一段上のレイヤーに上がっていると感じます。そして、世界のトップメーカーのさらにトップクラスのブランドは、明確にその基準に合わせてモノづくりをしています。

 

現在の日本の住宅環境で実際に配置できるリビングがどれだけあるかというのは、少し考えさせられるところがありますね。今回のサローネの展示は貴族の邸宅などを丸ごと一つのショールームにして行われているケースが多いため、そのまま自社の物件にプライス(採用)しようとしても、国内外を問わず簡単ではありません。しかし、私たちが現地へ足を運ぶのは、具体的な家具を買いに行くためではなく、そこにある「コンセプト」を見に行くためです。

 

私たちはそこに夢を見に来ているわけですから、現地で現実的な話ばかりをしていても面白くありません。ファッションショーのランウェイと同じで、これは「家具版のコレクション」だと思えばしっくりきます。コンセプトを見に行くこと自体が楽しいですし、意義があると感じています。

キッチンの家具化と「見せる」本質

風 間:今年は2年ごとに巡ってくるキッチンと水回りの展示年、いわゆる「ユーロクチーナ」の年でした。一般的にキッチンというと直線的でメカニカルな印象を持つ人が多いかもしれませんが、現在は椅子やテーブルと同様に、丸みを帯びたデザインが増えています。硬質な設備からだんだんと「家具化」されていく方向へ、また一歩進化を遂げたという点が大きな変化です。

 

背景にはライフスタイルの変化があります。一昔前の独立した一室から、手元を隠す腰壁を設けた「対面キッチン」がブームとなり、現在はさらに腰壁を完全になくしたアイランド型やペニンシュラ型が大変人気を集めています。上部の吊り戸棚や目立つレンジフードもなくしていく傾向にあり、LDKを一つの空間として一体的に見せることで、視覚的に広さを感じさせる効果を生んでいます。

 

あるトップメーカーのメインキッチンを3年間にわたって定点観測していますが、2024年は天板の上にカウンターが架かり、そのままダイニングテーブルにもなり得るスタイルが各メーカーで流行していました。翌年の2025年になると、カウンターが少し丸みを帯びた形状へと変化しつつ、全体としては天板も薄くよりシンプルなキッチンへと削ぎ落とされ、コンロ自体もパッと見では分からないデザインへと進化していました。

 

そして今年はさらにその先へと進んでおり、全面的に「家具化」が完了しています。キッチンの角は完全にアール(R)で構成され、周囲には洗練されたカウンターチェアが配置されていて、まるでバーカウンターのような佇まいです。コンロの存在感はなく、レンジフードも空間にまったく露出していません。さらに、キッチンを使用していない時には建具が閉じて、すべてがフラットな壁の中に美しく収まってしまうような設計が多く見られました。

 

木 本:お客様がそこで実際に日々生活されるというリアルな前提に立つと、「本当にこれほど生活感を排除した状態で、綺麗に維持しながら暮らせるのだろうか」というのは、実務に関わるデベロッパーとして正直なところ少し疑問に思う部分もあります。ただ、一つの家具として、あるいは製作物としての美しさは、圧倒的なものがありますよね。

 

すべてが完璧にピタッと収まっているので、この美しい状態を実生活の中で維持するとなると非常に大変だと思います。一般的な暮らしの中で維持するのは困難なレベルに達しています。

 

しかし、こうした展示がターゲットとしている超ハイエンドな邸宅では、実際に日常の調理を行うための実用的なキッチンは、この美しい表舞台のキッチンとは別のバックヤードにしっかりと用意されているケースが多いのです。そのセカンドキッチンといっても簡易的なものではなく、普通にコンロが4つ口くらいあるような、一般的な住宅のメインキッチン並みの本格的な設備が整えられています。完全に空間としての役割が切り離されているわけです。

 

つまり、リビングの前面、ゲストを迎え入れるパブリックな空間にあるあの究極に美しいキッチンは、調理のための設備ではなく、完全に「見せるためのキッチン」というアートピースのような位置づけになっています。今回のサローネでキッチンの家具化がここまで徹底的に進んでいた最大の理由は、やはり富裕層を中心に、住まいに対するライフスタイルや空間の捉え方が根本から変わってきているからなのだと考えています。

 

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帝国不動産株式会社

代表取締役社長 木本 啓紀

ゴールドマン・サックス証券株式会社アジア・スペシャル・シチュエーションズ・グループに18年間在籍。ローン債権、債券、不動産、エクイティ、証券化商品、オルタナティブなどあらゆるプロダクトを対象とした投資業務を経験。その後、ソフトバンクグループ株式会社に転じ引き続き投資業務に従事。2019年9月 当社取締役に就任。その後、ソフトバンクグループを退職し、2021年9月 代表取締役CEOを経て、2025年7月代表取締役社長に就任、現在に至る。

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