(※写真はイメージです/PIXTA)
年金月7万円、施設を選べない現実
ヤスコさんが入居している住宅型有料老人ホームの月額費用は14万5,000円。母の年金月7万円を充て、差額の7万5,000円は父が遺した生命保険金と、貯金、実家の売却益から支払っています。トータルでこれらの資産は約800万円ありましたが、紙おむつ代、衣類の補充、医療費の自己負担、季節ごとの行事参加費など追加で支払った費用もあり、現在は650万円です。1年間で月額費用だけで90万円の取り崩しが発生するため、8年以内に底を突きます。そうなればアンナさんが負担するしかありません。もし母の状態が変化して、医療費の自己負担や介護費用が増えれば、想定より早く母の資金は枯渇するでしょう。
母の施設費用は、アンナさん自身の老後資金から捻出する予定です。「お母さんにもっといい施設に入ってもらえたら、と思うこともある」とアンナさんは言います。
「でも、それはできなかった」
年金月7万円という水準からは施設の選択肢を狭めざるを得ません。施設の選択肢が狭まると、環境の選択肢も狭まります。費用の余裕が生まれれば、レクリエーションが充実した施設、個室環境が整った施設、外出支援が手厚い施設を選ぶことができます。しかし年金だけで費用をまかなうことに精一杯な状況では、そうした選択が難しくなります。「ご飯だけが楽しみ」という言葉の背景には、こうした制約も横たわっているかもしれません。
また、介護費用は子世代にも長期的な影を落とします。生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」(2025年度)では、老後の生活に不安を感じる人は83.2%にのぼります。アンナさんのように、親の施設費用を補填しながら自分の老後資金を削る50代は、この数字の中に少なくありません。
母の毎日の窮屈さ
施設のスタッフは親切で、母の体調は安定しています。客観的に見れば、いまの環境はヤスコさんにとって安全です。それでも娘としては、「ご飯だけが楽しみ」という言葉が示す母の日々の狭さに、胸が痛みます。帰りたがっていた母を説き伏せて施設に入れ、自分の老後資金にも不安を感じながら、母が「楽しみ」と言えるのが食事だけになっている。それは覚悟していた未来でしたが、実際に聞くのとは違いました。
老後の介護をめぐるお金の問題は、施設費用という数字だけでは語れません。なにを選べて、なにを選べなかったか。その「選べなかった」部分が、あとから感情として残ることがあります。
だからこそ、できるだけ早い段階で親の年金額・貯蓄・希望する暮らし方を把握し、どのような介護の形が現実的かを家族で話し合っておくことが必要です。選択肢を持てるかどうかは、準備を始めた時期によって変わります。「この施設しかなかった」ではなく、「この施設を選んだ」といえるかどうかの差は、準備の有無にかかっています。
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