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家を残せば喜ぶと思った…親心が仇になる
誰も住んでいない実家ですが、支払いは続きます。
固定資産税は年間約4万8,000円、火災保険は年間約2万円、夏場には草刈りも必要になります。遠方に住む田中さんは業者に依頼せざるを得ません。交通費を含めると年間10万円以上の出費になりました。
「住んでいない家にお金を払い続けている感覚です」
そう言って苦笑します。さらに追い打ちがかかりました。近隣住民から市役所を通じて連絡が入ったのです。庭木の枝が隣地にはみ出しているという苦情でした。定期的に業者に伐採してもらうことになり、費用は14万円。翌年には雨漏りも発生しました。応急処置だけで21万円かかりました。
預金は少しずつ減っていきます。両親の介護中に切り崩した貯蓄は、相続時点で約180万円でした。しかし修繕費や維持費が重なり、2年後には100万円を下回っていました。
「何のために実家を所有しているのか……本当に意味がなかった」
昨年冬のことでした。勤務先の業績悪化でシフトが削られます。手取りは13万円台まで落ち込みました。そのころ、固定資産税の納付書が届きます。金額そのものは決して巨額ではありません。しかし、田中さんは封筒を前に動けなくなりました。
電気代が上がる。
食料品も値上がりする。
将来の年金額も心許ない。
そんな状況のなかで、空き家への支払いだけは毎年確実にやってきます。
「もう限界です……」
思わず声が出たといいます。親を責めたいわけではありません。むしろ感謝しています。それでも現実は変わりませんでした。
「親は家を残せば喜ぶと思ったはずです。でも今の自分には資産にはならない」
結婚歴はなく、頼れる親族もいません。一人で生きていくために、老後資金を増やさなければならない年齢です。しかし実際には、使わない家の維持費を払い続けています。
売却のめどは立っていません。解体費を捻出する余裕もありません。そのようななか、固定資産税の納付書は毎年届く予定です。
空き家問題という言葉からは、管理不全の住宅や景観の問題が連想されます。しかし当事者にとっては、それだけではありません。収入の少ない単身者にとっては、老後資金を少しずつ削り続ける存在でもあります。
「自分が先に倒れるのが先か、この家を手放せる日が来るのが先か。どちらが先なんでしょう……」