親が亡くなったあとに残される「実家」が、思わぬ重荷となるケースが増えています。人口減少や空き家増加が社会問題となるなか、相続した家を手放せず苦しむ人も少なくありません。本記事では、手取り15万円で暮らす50代独身男性の事例を通じて、空き家相続が老後資金や人生設計に与える深刻な影響について考えます。
「もう限界です…」〈手取り15万円〉56歳独身男性を襲う「実家の固定資産税」。親亡き後に始まった「売れない不動産」の現実 (※写真はイメージです/PIXTA)

家を残せば喜ぶと思った…親心が仇になる

誰も住んでいない実家ですが、支払いは続きます。

 

固定資産税は年間約4万8,000円、火災保険は年間約2万円、夏場には草刈りも必要になります。遠方に住む田中さんは業者に依頼せざるを得ません。交通費を含めると年間10万円以上の出費になりました。

 

「住んでいない家にお金を払い続けている感覚です」

 

そう言って苦笑します。さらに追い打ちがかかりました。近隣住民から市役所を通じて連絡が入ったのです。庭木の枝が隣地にはみ出しているという苦情でした。定期的に業者に伐採してもらうことになり、費用は14万円。翌年には雨漏りも発生しました。応急処置だけで21万円かかりました。

 

預金は少しずつ減っていきます。両親の介護中に切り崩した貯蓄は、相続時点で約180万円でした。しかし修繕費や維持費が重なり、2年後には100万円を下回っていました。

 

「何のために実家を所有しているのか……本当に意味がなかった」

 

昨年冬のことでした。勤務先の業績悪化でシフトが削られます。手取りは13万円台まで落ち込みました。そのころ、固定資産税の納付書が届きます。金額そのものは決して巨額ではありません。しかし、田中さんは封筒を前に動けなくなりました。

 

電気代が上がる。

食料品も値上がりする。

将来の年金額も心許ない。

 

そんな状況のなかで、空き家への支払いだけは毎年確実にやってきます。

 

「もう限界です……」

 

思わず声が出たといいます。親を責めたいわけではありません。むしろ感謝しています。それでも現実は変わりませんでした。

 

「親は家を残せば喜ぶと思ったはずです。でも今の自分には資産にはならない」

 

結婚歴はなく、頼れる親族もいません。一人で生きていくために、老後資金を増やさなければならない年齢です。しかし実際には、使わない家の維持費を払い続けています。

 

売却のめどは立っていません。解体費を捻出する余裕もありません。そのようななか、固定資産税の納付書は毎年届く予定です。

 

空き家問題という言葉からは、管理不全の住宅や景観の問題が連想されます。しかし当事者にとっては、それだけではありません。収入の少ない単身者にとっては、老後資金を少しずつ削り続ける存在でもあります。

 

「自分が先に倒れるのが先か、この家を手放せる日が来るのが先か。どちらが先なんでしょう……」