(※写真はイメージです/PIXTA)
「兄さんを見習え」とは言われなくなったが…
昭さんは以前のように「兄さんを見習え」とは言わなくなっていました。その代わり、何かを決める場面になると決まって兄・達也さんの名前が出るのです。
介護ベッドを入れるかどうかを相談したときも、
「達也には話したのか」
母のデイサービス利用を提案したときも、
「達也は何て言ってる」
実家の雨漏り修理を手配したときも、
「最終的には達也にも確認しないとな」
和也さんは当初、それほど気にしていませんでした。長男なのだから当然だろう――そう自分に言い聞かせていたのです。
父のスマホに見た現実
そんなある日。昭さんがスマートフォンの操作を頼んできました。画面には家族LINEのグループが表示されています。そこで自分が入っていないグループが存在していたことに和也さんは初めて気づくのです。
覗き見るつもりはありませんでした。しかし通知が目に入ります。「相続の件だけど――」 。その文字列に体が固まりました。昭さんに促されるまま操作を続けるうち、会話の一部が見えてしまいます。そこには実家の扱いや預金、今後の財産整理――そんな話が並んでいました。
その夜、和也さんは昭さんに尋ねました。
「相続の話をしているなら、なんで俺には言わないんだ」
しかし返ってきた言葉は意外なものでした。
「お前にも話そうとは思ってたんだ」
和也さんは拍子抜けしました。では、なぜ兄だけだったのか。昭さんは続けます。
「こういう話は達也のほうが詳しいからな」
昭さんは常に長男である達也さんを基準にしていました。それは80歳を超えた今でも変わりません。悪意もありません。昭さんにとっては、ごく自然なことだったのです。
「結局、最後までそうなんだなと思いました」
最近、昭さんは物忘れが増えています。それでも実家へ行くと、「達也は元気か」と聞かれるといいます。