子どもの頃から兄弟間で比較され続けることは珍しくありません。しかし近年は、親の介護や相続、家族間の連絡手段の変化によって、その関係が老後になって再燃するケースが増えています。表面上は円満に見えても、水面下では深い溝が広がっていることも少なくありません。兄と比べられて生きてきた一人の男性が、親の老後をきっかけに直面した現実を見ていきます。
「兄と比べられる人生でした…」〈年収620万円〉劣等感の塊の58歳弟、相続直前に知った「家族LINEの真実」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「兄さんを見習え」とは言われなくなったが…

昭さんは以前のように「兄さんを見習え」とは言わなくなっていました。その代わり、何かを決める場面になると決まって兄・達也さんの名前が出るのです。

 

介護ベッドを入れるかどうかを相談したときも、

 

「達也には話したのか」

 

母のデイサービス利用を提案したときも、

 

「達也は何て言ってる」

 

実家の雨漏り修理を手配したときも、

 

「最終的には達也にも確認しないとな」

 

和也さんは当初、それほど気にしていませんでした。長男なのだから当然だろう――そう自分に言い聞かせていたのです。

父のスマホに見た現実

そんなある日。昭さんがスマートフォンの操作を頼んできました。画面には家族LINEのグループが表示されています。そこで自分が入っていないグループが存在していたことに和也さんは初めて気づくのです。

 

覗き見るつもりはありませんでした。しかし通知が目に入ります。「相続の件だけど――」 。その文字列に体が固まりました。昭さんに促されるまま操作を続けるうち、会話の一部が見えてしまいます。そこには実家の扱いや預金、今後の財産整理――そんな話が並んでいました。

 

その夜、和也さんは昭さんに尋ねました。

 

「相続の話をしているなら、なんで俺には言わないんだ」

 

しかし返ってきた言葉は意外なものでした。

 

「お前にも話そうとは思ってたんだ」

 

和也さんは拍子抜けしました。では、なぜ兄だけだったのか。昭さんは続けます。

 

「こういう話は達也のほうが詳しいからな」

 

昭さんは常に長男である達也さんを基準にしていました。それは80歳を超えた今でも変わりません。悪意もありません。昭さんにとっては、ごく自然なことだったのです。

 

「結局、最後までそうなんだなと思いました」

 

最近、昭さんは物忘れが増えています。それでも実家へ行くと、「達也は元気か」と聞かれるといいます。