(※写真はイメージです/PIXTA)
2024年夏の急落…「完璧な分散」の脆さと「狼狽売り」の結果
しかし、その自信は長くは続きませんでした。2024年7月11日、日経平均株価が史上最高値の4万2,224円をつけたのをピークに、潮目が完全に変わったのです。米国の景気減速懸念や円高の急進行が市場を直撃し、8月5日、日本株市場は歴史的な大暴落を記録します。日経平均は1日で4,451円も急落しました。
このとき、藤田さんが万全と信じていた「分散投資」の脆さが露呈することになります。
「なぜだ……!? 分散しているはずなのに、全部の画面が真っ赤じゃないか!」
それもそのはずです。世界的な株安の局面において、投機性の高い「レバレッジ型」や「特定のテーマ株(半導体)」、そして流動性の低い「インドなどの新興国株」は、真っ先に世界中の機関投資家が資金を引き揚げる対象となります。
分散投資したつもりの4つのファンドは、「暴落時にはすべて同じ方向(下)へ、通常の何倍ものスピードで押し下げられる」という強い連動性を持っていました。市場全体のパニック時には、全米株式の分散効果すら無力化します。
目減りしていく資産。仕事中も部下の報告が頭に入らず、トイレの個室に籠っては株価のチャートを凝視する日々が続きます。動悸が激しく、胃が痛んで仕方ありません。
8月5日の昼休み、ついに藤田さんのメンタルは限界を迎えました。「これ以上減ったら……」とパニックに陥った藤田さんは、会社の個室トイレで震えながらすべてのファンドの売却ボタンを押しました。負けが確定した瞬間、藤田さんは、激しい自己嫌悪と奇妙な解放感を覚えたといいます。
市場の猛反発…妻に打ち明けられない「350万円の損失」
藤田さんにとっての真の苦悩は、実はそのあとに始まりました。
恐怖に耐えかねてすべてを投げ出した2024年8月5日。皮肉にも市場はそこを「底」として、その後は猛烈な勢いでリバウンドを開始したのです。2025年、そして現在である2026年にかけて、日経平均は6万9,000円台へと爆発的な上昇を遂げました。もし藤田さんが、あのときパニックにならずにじっと耐えて持ち続けていれば、彼の資産は半分になるどころか、いまごろ2倍以上に膨れ上がっていたはずでした。
しかし、現実は非情です。底値で損切りしてしまった藤田さんの手元には、1円の恩恵も戻ってきません。ただ「失われた350万円」という動かせない事実だけが残りました。
「パパが新NISAやってくれてるから、うちは安心よね」
妻は、NISAを「国が推奨する、ちょっと利回りのいい貯金箱」程度に捉えています。夫がその裏でハイリスクな運用に手を出し、350万円もの資産を短期間で失ってしまったなどとは、想像すらしていないでしょう。
塾のパンフレットをみつめる妻の隣で、藤田さんは「本当のことを打ち明けたら、これまで築いてきた夫婦の信頼関係が崩れてしまうかもしれない」という不安に苛まれています。
仕事での高い評価も、年収900万円というステータスも、家庭の危機の前ではなんの盾にもなりません。リスク管理を怠ったポートフォリオは、藤田さんの精神的な負担となり、結果として家族の未来の選択肢をも狭める結果となってしまいました。