(※写真はイメージです/PIXTA)
「仕事ができる男」の過信
「ねえパパ、うちの新NISAっていまどうなってるの? そろそろ大手の進学塾に通わせたいんだけど、月謝の足しにできたりする?」
初夏の光が差し込むリビング。妻がダイニングテーブルに長男(9歳)の中学受験パンフレットを広げながら発したその一言に、藤田聡さん(仮名)は持っていたコーヒーカップを落としそうになりました。背中にじっとりとした嫌な汗が流れます。
「あ、ああ……まあ、ボチボチかな。世界的に株高だからね。でも、長期投資だからいま引き出すのはもったいないよ」
引きつった笑顔でそう答えるのが精一杯でした。心の中は「嘘だ、ボチボチどころではない……」と焦りでいっぱいです。藤田さんの投資口座は、2年前の夏に負った「致命傷」から、いまもなお1ミリも回復していません。それどころか、すでに投資を続ける気力を失い、残ったのは数百万円の純損失と、妻への罪悪感だけでした。
「まさか、あれが地獄の入り口になるとは……」
都内の中堅IT企業で課長職を務め、年収は900万円。部下のマネジメントも順調で、社内では「仕事ができる男」として通っている藤田さんが、なぜこのような泥沼に陥ってしまったのでしょうか。その原因は、多くの40代ビジネスパーソンが囚われがちな「ある勘違い」にありました。
時計の針を2024年の春に戻しましょう。この年、国を挙げて始まった「新NISA」への関心の高まりに、藤田さんもまた胸を躍らせていました。年収900万円という安定したバックボーンのもと、「よし、自分も新NISAから本格的な資産運用を始めてみよう」と決意したのです。すでにあった課税口座での運用はそのままに、今回の運用は新NISAから始めました。
ビジネスの現場でロジックとリスク管理を叩き込まれてきた藤田さんは、投資においても「素人とは違う賢い運用法」を模索します。YouTubeやSNSの投資インフルエンサーの動画を見漁り、彼が出した結論は次のようなものでした。
「これからは、高成長のインド株と、米国のハイテク株にレバレッジ(2〜3倍の値動きをする仕組み)をかけて効率よく資産を増やす時代だ」
もちろん、藤田さんも「分散投資が鉄則」であることくらいは知っていました。だからこそ、新NISAの「つみたて投資枠」で手堅いファンドを買い付ける一方で、NISAの枠内だけでは物足りなくなり、より高いリターンを狙って特定口座(課税口座)も活用したアグレッシブな投資戦略を組み立てたのです。すべての資金を一箇所の資産に集中させるような、極端なリスクの取り方は避けていたつもりでした。
インド株式ファンド(特定口座)
米国半導体レバレッジ3倍ファンド(特定口座)
日経平均レバレッジ2倍ファンド(特定口座)
全米株式インデックス・ファンド(つみたて投資枠)
「よし、これで日本、米国、新興国、そしてレバレッジまで完璧に分散した。定年まであと20年ある。これなら10年で資産を倍にできるぞ」
新NISAに全米株インデックスを選んだことで、藤田さんは自分なりに完璧な分散投資を行っているつもりでした。Excelで自作した綺麗な資産管理グラフを眺めながら、自分の「完璧なポートフォリオ」に酔いしれます。同僚たちが「とりあえずオルカン(全世界株式)」と口にするのを聞いては、「思考停止の凡人たち」と心の中で見下していたそうです。