(※写真はイメージです/PIXTA)
人生最後の大きな「買い物」
「この景色を毎日見ながら暮らせるなら、素晴らしい老後になると思っていました」
東京郊外の駅前に建つ、分譲マンションの最上階。
そこに住む高橋信夫さん(70歳・仮名)はそう振り返ります。大手企業の元役員だった高橋さんは、63歳で完全リタイア。退職金として手にした約4,600万円に加え、都内近郊の戸建てを売却して得た資金も合わせ、7年前に、現在住んでいるマンションを8,500万円で購入しました。
「年を取ると家の維持が大変になる。早いうちに住み替えようと思ったんです。防犯上も安心だし、駅に濡れずに行ける。窓の外は遮るものがなく、遠くまで見渡すことができる。終の棲家としては理想でした」
妻は3年前に病気で他界。子どもは長男と長女がいますが、それぞれ関西と海外で暮らしています。購入当時、管理費と修繕積立金など合わせて月3万8,000円の出費。
現在、高橋さんは年金を月約20万円受給。5,000万円近い預貯金は手つかずで、不安はありませんでした。
ところが、その計算に少しずつズレが生じ始めます。
想定以上の負担増
入居から2年後、管理組合から一通の通知が届きました。「大規模修繕計画の見直し」です。建築資材や人件費の高騰を背景に、長期修繕計画が修正され、修繕積立金の段階的な引き上げが決まりました。
国土交通省も近年、マンションの維持管理費の上昇や修繕積立金不足を課題として挙げています。特に高層マンションは設備が複雑で、エレベーターや機械式駐車場、共用施設などの維持費が大きくなりやすいとされています。
高橋さんの負担も毎年増えました。現在、管理費3万5,000円、修繕積立金2万2,000円、駐車場代1万3,000円。合計すると毎月7万円近い支払いで、入居時から2倍に跳ね上がったといいます。
「最初は値上がりしても数千円程度だと思っていました。まさかここまで増えるとは」
固定資産税を含めると住居関連費だけで年間100万円を超えます。国交省『令和5年度マンション総合調査』によると、修繕積立金が計画額に対して不足しているマンションは36.6%に上ります。また、全体の47.1%が段階的に積立金を引き上げる「段階増額積立方式」を採用しており、築年数の経過とともに急激な負担増に直面するケースは少なくありません。
それでも高橋さんが最も苦しかったのは、お金ではなかったといいます。
「気が付いたら、誰とも話していない日が増えていたんです」
戸建て時代には近所付き合いがありました。自治会の役員も経験し、毎日のように誰かと言葉を交わしていました。 しかし、今住んでいる分譲マンションでは事情が違いました。エントランスですれ違っても会釈程度。隣室の住人の顔も知らない。住民の多くは現役世代で、昼間はほとんど姿を見ません。
「宅配ボックスとエレベーターの往復だけで生活が完結するんです。便利なんですよ。でも便利すぎる」