物価高が長引くなか、老後資金への不安を抱える高齢者は少なくありません。一方で子ども世帯を助けたいという思いや孫への愛情から始まった支出が、気づかないうちに家計を圧迫するケースもみられます。娘夫婦から援助を求められたことは一度もないにもかかわらず、「かわいい孫のため」にお金を使い続けた70代夫婦。誰も悪くないはずだった家族関係に生まれた小さな違和感を追いました。
孫「もう、お金ないの?」と涙目で…年金月25万円・70代夫婦、終わらないおねだりに「作り笑い」で応えた夜

孫のおねだりを「初めて断った日」

異変に気づいたのは昨年の夏でした。正夫さんが通帳を眺めながら言いました。

 

「思ったより減ってるな……」

 

定期預金を取り崩した回数は、この5年間で7回。旅行や家電の買い替えだけでは説明がつかず、家計簿を見返すと、孫関連の支出が重く積み重なっていました。

 

「このままじゃまずいかもしれないな」

 

そう話したものの、その数週間後には翔太くんの誕生日がありました。プレゼントは4万3,000円の自転車。その後の食事会も夫妻が支払い、会計は約2万5,000円でした。

 

その帰り際、翔太くんが何気なく言いました。

 

「次はゲーム買ってね」

 

正夫さんは少しだけ困った顔で「それは難しいかな」と答えます。初めての拒絶に、翔太くんは不思議そうな顔をしました。

 

「なんで?」

「お金も大事だからね」

 

すると翔太くんは祖父の顔を見つめながら聞きました。

 

「おじいちゃん、もうお金ないの?」

 

その瞬間、正夫さんは作り笑いを浮かべるしかありませんでした。悪意はなく、ただ子どもらしい率直な疑問。しかし夫妻には重く響きました。これまで欲しいと言われれば常に買い、行きたいと言われればどこへでも連れて行しました。祖父母とはそういう存在だと、翔太くんは理解していたのです。

 

夕食の席は妙に静かでした。娘の美咲さんが気まずそうに口を開きました。

 

「本当、無理しないでね」

 

正夫さんは苦笑しました。

 

「わかってるよ」

 

その言葉のあとに続く本音は飲み込みました。誰かに頼まれたわけではなく、自分たちが勝手に始めて続けてきたことです。断る場面はいくらでもあったはずですが、それでも孫が喜ぶ顔を見るたびに財布を開いてしまいました。

 

現在、高橋夫妻の金融資産は1,600万円を下回っています。老後が破綻する水準ではありません。それでも正夫さんの頭には、これから先の医療費や介護費用が浮かびます。

 

今月末も翔太くんは遊びに来る予定です。また何か欲しいって言われたら、たぶん、また悩むだろう。孫はかわいい、だからこそ難しい――高橋夫妻はいまも、老後資金と孫への愛情の間で揺れ続けています。