高齢者のスマホ利用が当たり前になった一方で、本人も家族も気づかないまま家計がむしばまれる新たな問題が広がっています。詐欺被害のような派手な事件ではなく、日常のなかでいつの間にか進行する「見えない支出」。市営団地で一人暮らしを続ける78歳女性の通帳に起きた異変を通して、高齢者とデジタルサービスの間に潜む思わぬ落とし穴をみていきます。
「私、何か悪いことした?」〈年金月15万円〉市営団地で暮らす78歳母、口座から消える〈月10万円〉に恐怖…帰省した〈52歳長男〉が突き止めた「支出の正体」 (※写真はイメージです/PIXTA)

意図しない契約…「詐欺じゃない」が厄介

健一さんは銀行や携帯会社にも相談しました。ところが返ってきた答えは予想外でした。

 

「ご本人が同意して登録した契約であれば、基本的に返金は難しいですね」

 

不正利用ではありません。詐欺とも断定できません。本人がボタンを押し、利用規約に同意している以上、契約は成立しているのです。だからこそ厄介でした。オレオレ詐欺であれば被害だと認識できます。警察にも相談できます。

 

しかし今回のケースは違います。和子さん自身も「騙された」という感覚がないまま、半年間で約60万円が流出していました。年金生活者にとっては決して小さくない金額です。

 

厚生労働省『2024(令和6)年 国民生活基礎調査』によると、生活苦を訴える高齢者世帯は55.8%。毎月の収支に大きな余裕がありません。数万円単位の固定支出増加が続けば、預貯金を取り崩す生活に直結します。

 

「私がもっと早く気づいていれば……」と健一さんは漏らしました。

 

しかし、離れて暮らす親の家計を定期的に確認している子どもは決して多くありません。

 

通帳を見せてほしいと言えば嫌がられる。スマホを確認させてほしいと言えば怒られる。親子関係への遠慮もあるでしょう。和子さんも当初は「お金のことまで口出ししないで」と言っていたそうです。

 

ところが残高が減り続ける現実を前に、その言葉は次第に弱々しくなっていきました。現在、健一さんは契約の整理を進めています。ただ、解約できたものもあれば継続中のものもあります。どれが必要で、どれが不要なのか。本人も把握できていないのです。

 

「母だけの問題じゃないと思うんです」

 

帰り際、健一さんはそう話しました。スマホは高齢者の生活を便利にしました。その一方で、本人も家族も気づかない支出を生み出す装置になることも。そして、通帳の残高が減って初めて異変に気づく――そんな事態は、もはや特別な話ではないのかもしれません。