毎日スマホアプリを確認するのが習慣になり、一喜一憂する日々。老後に始めた新NISAが、いつの間にか69歳男性から老後の平穏を奪い去っていました。投資で、「決してやってはいけないこと」とは? 本記事では、Aさんの事例とともに無理のない資産運用を探っていきます。※個人の特定を防ぐため、事例は一部脚色しています。
NISAなんてこりごりだ…退職金1,500万円で投資を始めた年金30万円・69歳夫、スマホを凝視したまま硬直。2年後、唇に血を滲ませながら「全額現金に戻した」理由【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

ビギナーズラックで暴れる迷惑老人

投資を始めて3ヵ月が経ったころ、Aさんの行動に異変が生じます。

 

それまで小馬鹿にしながら見ていたSNSに、気づけば毎日5時間以上を費やすようになっていました。タイムラインを埋める株クラの言葉を読んでは、見下すようなリプライを送りつけ、マウントを取ります。やがて、自らも発信者として動き出しました。

 

SNSの世界では、極端な主張や強い断言、あるいは他者を叩き、誰かを持ち上げるような投稿のほうが、耳目を集めやすいものです。Aさんは自身の運用成績を誇示し、それが己の知性の賜物であると露骨にアピールするようになっていきました。ネット記事を引用してきては筆者を個人攻撃したり、経済評論家の投稿を印象して「経済がわかっていない経済評論家w」などと悪態をついたりを繰り返したのです。

 

誰かを叩けば叩くほど、フォロワーが増えいきました。界隈の人々がAさんの優秀さを理解しているからだと信じ込みます。「自分以外は全員無能」そんな言葉まで平気でネット上に放流していました。

 

しかしある日を境に、風向きが変わってしまいます。

 

「キャラとしては面白いけど、こんなおっさん、友達いないだろ」

 

あるユーザーがAさんの投稿を引用したこの呟きが、数十万インプレッションという大バズりを引き起こしたのです。これをきっかけに、Aさんがなにをいっても冷笑と激しい批判が殺到する事態へと一変しました。

 

「老後に投資を始めて勘違いしたおじいちゃん」

「朝5時から他人を誹謗する老人は寂しい」

「ビギナーズラックで威張るとか」

 

流れてくる辛辣な言葉の数々に、Aさんは怒りが湧いてきました。怒りに任せた発言は過激化するばかりで、ついにはプラットフォーム側から表示制限されます。閲覧数はゼロに近くなってしまいました。

2024年8月5日、令和のブラックマンデー

Aさんはその夏、血の気が引く思いを味わうことになります。日経平均株価が4,451円下落。1987年のブラックマンデーを超える、史上最大の下落幅を迎えたのです。

 

「日本株の話だ。米国株を持っている自分には、直接関係ない」。——胸のざわつきを抑えながらそう自分に言い聞かせましたが、毎朝の習慣でアプリを開いた瞬間、彼の指が凍りつきました。

 

急激な円高と米国株急落のダブルパンチが、ファングプラスを容赦なく引きずり下ろしていたのです。1,500万円が、1,290万円にまで崩れ落ちていました。わずか1週間で、210万円の損失です。

 

状況を確かめようとアプリを何度も開いているうちに、画面には「アクセスが集中しております」というエラーメッセージが表示されるように。「自分の金がいま何円になっているのか、それさえ確認できない」。焦燥感が、恐怖をさらに増幅させました。

 

SNSには「終わった」「全部売った」という投稿が溢れ、テレビでも「ブラックマンデー超え」と繰り返し報じます。AさんはSNSに投稿する気にもなりません。少しだけ覗いてみると、自分のことを「おじいちゃん無言w」と揶揄する人が大勢いるようでした。

 

下落のことは、妻には話していません。アプリを開き、また数字を確認しました。一人で耐えるしかありません。