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誰にもいわず、投資デビュー
Aさんはネット証券会社で口座開設の手続きを進めるあいだ、毎日投資について勉強をしてみました。そこで彼が行き着いたのが、米国の超巨大ハイテク企業10銘柄に集中投資する「iFreeNEXT FANG+インデックス」です。
世界中に薄く広く分散するオルカンのような退屈な平均点など、有能な俺が選ぶわけがない。そう見下していたAさんにとって、FANG+の構成銘柄は魅力的に映ります。
マイクロソフト、アップル、エヌビディア、メタ……。ニュースの主役であり、現代の世界経済を支配するトップ10企業の顔ぶれを見た瞬間、元商社マンとしての血が騒ぎ、深く納得しました。「局面を読むなら、これしかない。これこそが勝者のポートフォリオだ」と。
「とりあえず始めてみないと掴めないな」と考え、口座開設と同時に、退職金を含む手元資金4,000万円のうち1,500万円を一括投資しました。ただし、FANG+は「つみたて投資枠」対象外の、成長投資枠限定のファンドです。そのため、初年度の非課税投資上限である240万円だけをNISA口座に入れ、残りの1,260万円は特定口座に流し込みました。積立ではなく、あえて一括で。「少しずつ入れるより、余裕資金があるなら早く入れたほうが複利が効く」とネット記事で読んだからです。
誰かに直接教えを乞うのは好まないので、誰にも相談しませんでした。「有能な俺が、投資ごときで誰かに相談するなんてみっともない」というプライドが強く働いた結果です。
「俺は俺の判断しか信用しない」。Aさんはそういう性格なのです。会社員時代は会社という大きな傘の下で守られていたので、強気な態度でも生きていくことができました。しかし、誰からも守られない個人投資家の世界で、不遜な態度がどのような結果を招くのかなど、当時の彼には知る由もなかったのです。
もちろん、妻にさえ相談していません。増えてから、さりげなく伝えればいい。「実はコツコツ運用していたんだ」と、資金が倍増したのを見せたら、妻はまた自分を褒めてくれるだろう。そんな姿を想像していました。
SNSマウントが生んだ束の間の万能感
投資を始めて数ヵ月、証券会社の運用画面はプラスを示し続けました。
毎朝、アプリを開くのが習慣になりました。含み益が増えるたびに、小さな優越感が自分のプライドを持ちあげてくれるのです。NISA自慢をひけらかす元同僚には、「ああ、おまえは優秀だな」とお世辞をいい、内心では「こちらはあっというまに100万円超えだがな」と嘲笑っていました。「お前ら凡人と違って、俺は頭の出来が違うんだ」というわけです。
SNSに溢れるいわゆる「株クラ」の投稿を眺めても、誰もが自分より無能に思えてなりません。「偉そうに講釈垂れている割には、大した結果を出していないじゃないか」と一人、画面に向かってせせら笑う日々。「資産運用とはこういうものか。難しく考えすぎていた。持っていれば増える。シンプルな話だ」Aさんはそう確信しはじめていました。