定年退職を迎え、十分な退職金を得て安心した老後を送るはずだった一人の男性。しかし、愛する初孫への度重なる経済的援助を独断で続けた結果、わずか数年で資産は激減し、老後破綻の危機に直面することになります。一体なぜ、大切な老後資金を使い果たしてしまったのでしょうか。老後に陥りやすい家計の落とし穴をみていきます。
「じぃじ、次はいつハワイ行く?」〈退職金2,500万円〉〈年金月25万円想定〉初孫のおねだりに応え続けた64歳祖父、預金残高「1,850,300円」の衝撃 (※写真はイメージです/PIXTA)

利用明細に記された「1,850,300円」の残高

孫が4歳になる直前のある日、隆さんは日用品の買い出しのついでに、銀行のATMへ立ち寄りました。 引き出した生活費とともに利用明細の残高を見て、驚くことになります。 普通預金の残高は「1,850,300円」となっていました。

 

「なにかの間違いではないか。前はもっと残高があったはずだ」

 

隆さんは通帳を記帳し、窓口で取引明細を確認しました。 ハワイでのリゾート婚費用、毎月の高額な月謝、真由美さん夫婦への度重なるお小遣いに加え、現役時代の金銭感覚が変わらず、毎月50万円近い出費がありました。 こうして2,500万円あった退職金は、わずか3年間で大半を使い果たしてしまったのです。

 

総務省『家計調査 家計収支編 2025年平均』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における1ヵ月の実収入は約25.4万円です。 税金や社会保険料を差し引いた可処分所得(手取り額)は約22.2万円となります。 一方で、生活費にあたる消費支出は約26.4万円となっており、平均的な世帯でも毎月約4.2万円の赤字が発生し、貯蓄の取り崩しで補てんしているのが実態です。

 

隆さんの場合は毎月10万円近い赤字を出したうえに高額な特別支出が重なりました。 退職後は平均的な家計を参考に収入に見合った生活水準へ見直さなければ、多額の老後資金もあっという間に枯渇する危険性があります。 隆さんは「妻への説明や、今後の長い老後生活をどのように送るべきか途方に暮れました」と振り返ります。

家族との関係悪化と老後の困窮

その夜、隆さんは妻の恵子さんにすべてを打ち明けました。

 

「私たちの老後資金を何だと思っているの。夫婦のお金なのに、なぜ全部ひとりで勝手に決めてしまったの」

 

恵子さんは強い怒りを示し、ただただ謝るしかなかったといいます。 さらに隆さんは長女の真由美さんにも電話で状況を話し、今までのように援助ができないことを伝えました。

 

「お父さんが『お受験をさせなさい』と勧めてくれたから……公立の小学校に行かせるしかないわね」

 

結局、お受験に向けて頑張るのを諦めざるを得なくなりました。また長女家族との関係も、どこかギクシャクするようになったといいます。

 

「私の見栄のせいで、孫や娘を振り回してしまった」

 

現在、隆さんは少しでも失った老後資金を取り戻そうと、物流倉庫でのピッキング作業のパートを始めています。 時給1,150円。 重い段ボールを運ぶ日々を過ごしています。