少子化が進む現代、初孫への経済的支援が過熱しています。周囲への見栄や愛情から過度な出費を重ね、自らの老後資金を脅かす孫破産も。ある72歳女性の葛藤を通し、現代の高齢者が陥りやすい心理的な罠と過酷な現実をみていきます。
「ランドセルは私が買うわ」〈老後資金1,000万円〉72歳母の誤算…「息子夫婦と嫁の親」への見栄のツケ (※写真はイメージです/PIXTA)

膨らむ「イベント出費」と、高齢者が陥る「サンクコスト」の罠

ランドセル代の10万円に始まり、入学祝いに5万円、学習机の購入費用として8万円。 さらに、夏休みや正月に入学の報告を兼ねて帰省する際には、テーマパークのチケット代や外食費、滞在中の小遣いなど、1回の帰省で20万円近くを智子さんが全額負担しました。

 

総務省統計局『家計調査 家計収支編 2025年平均』によると、65歳以上の単身女性世帯における1ヵ月あたりの消費支出は平均15万2,996円。 そのうち、孫への祝い金などが含まれる「交際費」は1万9,782円(うち「贈与金」が1万0,524円)であり、生活費全体の約13%を占めています。

 

宮崎さんのように月額約14万円の年金で暮らす高齢者にとって、イベントのたびに10万〜15万円の現金を包んだり、高級ランドセルを購入したりすることは、1ヵ月の生活費を丸ごと失うに等しい異常な過剰支出です。 「これまであんなにお金を出してきたのだから、今さら後には引けない」という相手への対抗心や見栄は、取り返しのつかないサンクコスト(埋没費用)の罠となり、限りある大切な老後資金をあっという間に食いつぶしてしまいます。

 

「孫が『おばあちゃん、これ買って』『おばあちゃん大好き』と言ってくれる。その笑顔を見るためなら、いくらでも財布を開いてしまいました」

 

義娘も毎回喜んでくれるため、智子さんは自分が認められたような充足感を覚えていたと振り返ります。

シニアの「孫消費」の限界

文部科学省『子供の学習費調査(令和5年度)』によると、公立小学校の1年間の学習費総額は約36万7千円、私立では約174万2千円に達します。 また、ランドセルなどの通学用品購入費を含む「通学関係費」の平均額は、公立小学校で約2万2千円、私立小学校でも約11万1千円となっています。 智子さんが見栄から購入を約束した10万円を超える高級ランドセルは、平均的な金額を大きく上回る突出した出費であることがわかります。

 

さらに、仮に孫が幼稚園から高校まですべて私立に通った場合、15年間の学習費総額は約1,969万円にも上り、教育費の負担は膨大です。 幼稚園から高校までにかかる学習費や学校外活動費は上昇傾向にあります。 特に都市部での子育てコストは増加しており、現役世代の親だけでなく、その親である祖父母世代への経済的依存度が高まる傾向にあります。

 

また生命保険文化センター『2025(令和7)年度 生活保障に関する調査』によると、老後の「ゆとりのための上乗せ額」の使途として「子どもや孫への資金援助」を挙げる人は全体の16.3%。 しかし同時に、老後生活に不安を感じる人の約8割(79.8%)が「公的年金だけでは不十分」と回答し、27.2%が「貯蓄等の準備資金が目減りする」ことに不安を抱いているのが実態です。

 

智子さんのように、見栄や充足感から計画性のない援助をエスカレートさせれば、こうした経済的不安はすぐに現実のものとなります。 孫への愛情は大切ですが、まずは自身の生活基盤を守る「自己防衛」の意識を持ち、身の丈に合った支援にとどめる冷静なライフプランの構築が不可欠といえるでしょう。

 

孫を優先した結果、智子さんの生活は一変したといいます。 1日3食の食事を見直し、朝は食パン1枚、昼と夜は安価な豆腐やもやしを中心としたメニューで凌いでいるそうです。 現在は何でも1円単位で気を遣わなければならない状況にあります。

 

「孫にいい顔をして、義娘の実家に見栄を張って――本末転倒と思われるかもしれませんが、今の私にとって生きがいそのものなので仕方がありません」