中高年のひきこもりや定職につかない子どもが、高齢の親の収入に依存して生活が行き詰まる「8050問題」。親の高齢化に伴い、かつては生活の支えだった年金や貯蓄が底を突く事例が後を絶ちません。ある親子の現実を通して、この社会課題について考えます。
「なぜ、まだいるんだよ…」85歳母の〈月15万円の年金〉で暮らす働けない55歳息子。貯金通帳を握りしめ暴言を吐く、親子ふたり困窮の末路 (※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者世帯の半数以上が「年金のみ」で暮らす実態

厚生労働省『令和6年 国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯の所得構造において公的年金・恩給が総所得に占める割合は高く、全体の4割強が「年金のみ」で暮らし、収入の「8割以上が年金」という人たちも加えると、およそ6割にも達します。

 

田中家のように、本来は高齢者1人の生活を支えるための年金が、働けない子の生活費として消費される場合、医療や突発的な出費に対応する余力は失われてしまいます。

 

春子さんの貯金が100万円を切った日、純一さんは春子さんの目の前で通帳を見せ、冒頭の言葉を口にしました。

 

それは、実の親の長寿を喜ぶことができず、自分自身の生存を脅かすリスクとして捉えてしまう、困窮の果ての言葉でした。もし春子さんに万一のことがあれば収入が断たれてしまうことへも、考えが及ばなかったようです。

 

春子さんは、「すまないねぇ、長生きしてしまって」と謝るしかできなかったといいます。

共倒れを防ぐために必要な公的支援へのアクセス

前出の内閣府の調査によると、ひきこもりの当事者が外部の支援につながりにくい点も深刻な課題です。日常生活の困難に対して「誰にも相談したくない」と考える人の約6割(59.7%)が、その理由を「相談しても解決できないと思うから」と回答しており、支援への期待を失い諦めてしまっている実態が浮かび上がります。

 

純一さん親子のケースのように、第三者の介入がないまま家庭内に問題を抱え込み、高齢の親の負担が限界に達してしまう状況は、社会全体で孤立を防ぐための仕組みづくりが急務となっています。

 

こうした状況を防ぐための公的な相談窓口として、国は各自治体に「自立相談支援機関」を設置しています。生活困窮者自立支援法に基づき、経済的な困窮だけでなく、ひきこもりや生活課題が絡み合っている世帯に対して、専門の相談員が包括的な支援を行う仕組みです。福祉関係者は「お金の限界が来る前に、まずは家族以外の人間に状況を共有することが、共倒れを防ぐ唯一の選択肢」と指摘します。

 

現在、田中家には地域の福祉窓口の職員が介入し、春子さんの生活支援と、純一さんへの生活困窮者自立支援制度の適用に向けた手続きが進められています。しかし、15年という歳月で染み付いた親への依存心と、壊れてしまった親子の関係がすぐに元に戻るわけではありません。

 

「もっと早く誰かに話していれば、息子にあんな酷いことを言わせずに済んだのかもしれない」