中高年のひきこもりや定職につかない子どもが、高齢の親の収入に依存して生活が行き詰まる「8050問題」。親の高齢化に伴い、かつては生活の支えだった年金や貯蓄が底を突く事例が後を絶ちません。ある親子の現実を通して、この社会課題について考えます。
「なぜ、まだいるんだよ…」85歳母の〈月15万円の年金〉で暮らす働けない55歳息子。貯金通帳を握りしめ暴言を吐く、親子ふたり困窮の末路 (※写真はイメージです/PIXTA)

40歳手前で退職、15年におよぶ親への依存

「なぜ、まだいるんだよ。母さんがいるとお金がなくなるじゃないか」

 

都内の一戸建てに住む田中春子さん(85歳・仮名)は、同居する息子の純一さん(55歳・仮名)から、残高の少なくなった自身の貯金通帳を突きつけられ、そう言われたと話します。かつては穏やかだった親子関係は、15年以上にわたる経済的依存の末に、冷え切っていました。

 

春子さんによると、純一さんは大学を卒業後、コンサルティング会社に勤務していましたが、40歳の手前で職場の人間関係から体調を崩して退職。当初は再就職を目指していたものの、面接での不採用が重なるうちに断念し、次第に外出を避け、自宅にひきこもるようになりました。

 

その純一さんの生活を支えてきたのが、夫に先立たれた春子さんの年金(遺族年金と基礎年金)、合わせて月に約15万円です。春子さんは日々の食費や光熱費、さらに純一さんの携帯電話代や国民健康保険料まで、すべてその年金から支払い続けてきました。

全国に61万人、中高年ひきこもりの厳しい現実

内閣府『こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)』によると、40歳から64歳までのひきこもり状態(外出頻度が低い状態)にある人は全国に推計で約61.3万人です。また、その状況が「66か月以上」続いている人は87.5%に達しており、一度ひきこむと事態が長期化しやすい傾向が示されています。

 

純一さんのように社会との接点が絶たれるケースも多く、過去6か月間に家族以外と「まったく会話しなかった(2.0%)」、「ほとんど会話しなかった(13.9%)」という人は合計15.9%に上ります。

 

田中家では、春子さんが70代のうちは、月15万円の年金とわずかな蓄えで2人の生活を維持することができていました。しかし最近は医療費や定期的な通院費用が毎月かかるようになり、物価高も重なって、年金だけでは足りなくなってきたのです。

 

「自分の医療費が増えてから、毎月のお金が足りなくなりました。純一は『働くこともできない』からと、通帳の残高が減っていくのが怖かったようです」