(※写真はイメージです/PIXTA)
都心の家賃負担から逃れるため、郊外へ
「東京を少し離れるだけだから、生活は大きく変わらないと思っていました。まさかこんな結果になり、元の暮らしに戻りたいと泣くことになるとは予想もしませんでした」
東京から電車で1時間半、最寄駅からバスで20分、かつて開発されたニュータウンの一角に建つ築45年の分譲団地。ここに住むのが、佐藤博さん(65歳・仮名)、妻の美智子さん(63歳・仮名)。
東京都杉並区の賃貸マンションを離れ、この場所に引っ越してきたのは5年ほど前のこと。当時60歳だった博さんは、長年勤めた都内の中堅メーカーで定年を迎え、その後は嘱託社員として再雇用制度で働きながら、本格的な老後の生活設計を立て始めていました。現在は夫婦の年金月24万円が生活の柱となっています。
東京・杉並区にいた頃の住まいは2DKで、家賃は管理費込みで月額17万5,000円でした。現役時代の貯蓄が約1,200万円あったものの、将来、月24万円の年金収入から17万円近くが家賃として消え、生活費や医療費を差し引くと毎月貯蓄を取り崩していかなければならない――そのような現実を前に、夫婦は強い危機感を抱いたといいます。
「毎月の家賃負担さえなくなれば、老後の資金繰りに余裕ができると考えました。あと20年、30年と生きるなかで、少しでも手元の現金を残しておきたかったのです」
一刻も早く生活費を抑えたいと考えた夫婦は、不動産ポータルサイトで見つけた郊外の中古分譲団地の一室を購入することに決めました。築年数は当時で40年、専有面積55平米の2LDKで、価格は380万円。現金の持ち出しは、諸費用を合わせても450万円に収まりました。手元の貯蓄の約3分の1を投じれば、毎月の重い家賃負担から解放されるという計画でした。
5年かけて直面した、修繕積立金「4倍超」の現実
住み替え当初、夫婦は「毎月の家賃がいらない生活」が始まったことに安堵していました。購入当時の固定費は、管理費と修繕積立金を合わせた1万8,000円のみ。年金24万円の範囲内で十分に収まる計算であり、都心にいた頃のような金銭的な圧迫感からは解放されたように見えました。
しかし、入居から2年が経過した頃から、管理組合の総会でマンションの財政難が繰り返し議題に上るようになります。そして、ここ数年の建築資材や人件費の高騰が決定打となり、積立金の改定案が可決されました。
「当初は月額8,000円だった修繕積立金が、段階的な値上げを経て、現在は3万5,000円になりました。4倍以上ですよ。これでは、管理費と合わせると毎月5万円近くを支払わなければならなくなります」
築45年を迎えたそのマンションは、外壁や給排水管の老朽化が進んでおり、大規模修繕工事が不可欠な状態でした。しかし、過去の長期修繕計画の見直しが適切に行われておらず、工事費用に対して積立金が圧倒的に不足していることが判明しました。
さらに、全120戸のうち約2割が空き家となっており、所有者不明などで修繕積立金の滞納が常態化していたため、稼働している住戸でその不足分を急遽補填せざるを得ない状況に陥っていたのです。
国土交通省『マンション総合調査(令和5年度)』によると、全国のマンションにおいて、計画に対して修繕積立金が不足していると回答した管理組合の割合は、全体の34.8%に上ります。
特に、築年数が経過した物件ほど、当初の設定額の低さや空き家率の上昇、建築資材・人件費の高騰が響き、段階的な値上げや、数百万円規模の一時金の徴収を迫られるケースが多発しているのが実態です。
「価格の安さだけに飛びつき、マンション全体の管理状態や将来の引き上げ計画をまったく確認していませんでした。毎月の支払いが上がれば、東京で家賃を払っていたころと生活の苦しさは変わりません」