定年退職を機にスタートさせるセカンドライフ。何にも縛られず、悠々自適な毎日――そんな夢のような日々がかなうとはかぎりません。まとまった退職金を手にしながらも、悠々自適の生活から一転、窮地に陥った男性のケースをみていきます。
「ついに自由だ!」〈退職金2,500万円〉60歳夫、定年とともに会社を去る決意。悠々自適のはずが「地獄でしかない」とため息のワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

相談の7割が70歳以上…知っておきたい「リースバック」の罠

こうした住宅リースバックに関するトラブルは、近年急激に増加しています。国民生活センターの調査によると、リースバックに関する相談件数はここ数年で増加傾向にあり、その契約当事者の約7割が70歳以上の高齢者で占められています。

 

大島さんのように60代前半の退職直後の時期であっても、老後資金への不安につけ込まれて強引な勧誘の標的になるケースも珍しくありません。

 

同センターに寄せられる相談事例をみていくと、問題の本質は主に3点あります。

 

第一に、業者が「何時間も勧誘し続ける」といった、消費者が心理的に追い詰められる手法を用いている点。第二に、複雑な契約内容や将来的な家賃値上げのリスクなどについて、業者側が適切な説明を行わず、消費者の理解が不十分なまま契約を締結させている点。そして第三に、判断能力が低下した高齢者が、市場価格を大きく下回る不当な安値で自宅を手放してしまうケースがある点です。

 

国土交通省などの行政機関もこの事態を重く見ており、トラブルの未然防止に向けて動き出しています。同省では今後、リースバックに関する基本的な知識やメリット・デメリット、不動産の売買および賃貸借契約に関する知識の周知を徹底する方針です。具体的には、実際の契約時に確認すべき事項について、消費者への情報提供や注意喚起を強化していく構えです。

 

一方で、自宅を不動産業者に売却する契約を結んだ場合、法律上のクーリング・オフ制度は適用されない点には注意が必要です。もし現状の負担から抜け出すためには、契約書に基づいた「ビジネスとしての出口戦略」を模索せざるを得ません。

 

選択肢は主に、手元の資金を使って契約書通りの価格で自宅を「買い戻す」か、あるいはマイホームへの執着を捨てて「別の安い賃貸物件へ引っ越す」かです。リースバックは自宅を売却して賃貸借とする契約であるため、通常の賃貸と同じく、借主側からの退去はいつでも自由に行うことができます。

 

業者の言葉を信じて契約書に判を押し、一度は絶望した大島さんですが、現在は専門家に相談しながら、手元に残った退職金をもとに別の住まいへ移る準備を進めています。

 

「契約に落ち度がないと言われ、最初は目の前が真っ暗になりました。でも、この家を諦めて引っ越せば、毎月の高い家賃に怯える生活からは抜け出せます。あとはこの家を諦めきれるか……それだけです」