内閣府「高齢者の健康に関する調査」によれば、高齢者が最期を迎えたい場所として「自宅」を挙げる割合は依然として約半数にのぼります。しかし、唯一のバス路線が廃止され、商店街がシャッター通りと化した過疎地でその願いを叶えるには、多大な代償が伴うもの。地方の過疎地域にある築古の自宅をリフォームしたマサカズさん(仮名)の事例から、親子間の実家の処遇に関するすれ違いをみていきましょう。
「親がなにを考えているかわからない…」唯一のバスは廃便・シャッター街にある〈実家〉を900万円で改装。子どもたちの反対を押し切り、75歳両親が選んだ“贅沢な孤立” (※写真はイメージです/PIXTA)

「負動産」になることへの葛藤と、動けない現実

マサカズさんと妻は、自分が亡くなったあとにこの家が「売れない負債」として息子たちに残る可能性を、決して無視しているわけではありません。空き家対策特別措置法の厳格化により、放置された空き家の管理責任が重くなっている現状も理解しています。それでも、いまの場所を離れることへの抵抗感は、想像以上に強いものでした。

 

「子どもたちに迷惑をかけたくないという思いはある。でも、75歳を過ぎてから、知らない土地で、一から人間関係を築くのはもう無理なんだ。ここでなら、どこになにがあるか、誰が住んでいるか、すべてわかる。不便だといわれても、ここが私の人生の一部なんだ」

 

息子たちへの申し訳なさと、住み慣れた環境を失うことへの恐怖。マサカズさんはその葛藤の末に、あえて不便な場所にある自宅を住みやすくすることで「いまの自分」を繋ぎ止める道を選んだのです。

 

900万円リフォーム費用、「資産寿命」への影響

リフォーム費用を投じた後の、夫婦の残り資産をシミュレーションしてみましょう。

 

貯蓄:3,500万円

改装費支出:900万円

残り:2,600万円

年金(月22万円)と支出(月20万円)の差額:+2万円(黒字)

資産寿命 = 2,600万円÷介護・医療予備費(年換算)

 

マサカズさんの計算では、このリフォームによって住宅関連の突発的な修理費や、転倒によるケガのリスクを抑えられれば、残り2,600万円で自分たちの最後までは十分に暮らしていけるという判断でした。

高齢親が抱える「環境変化」への拒絶

マサカズさんのような選択をする背景には、単なる頑固さだけではない、高齢者特有の切実な問題が潜んでいます。

 

内閣府「令和元年版高齢社会白書 高齢期の生活に関する意識」によれば、約半数(51.0%)の高齢者が「最期を迎えたい場所」として「自宅」を挙げています。しかし、リフォームされていない古い家では、介護が始まった瞬間に施設へ入居しなければならないかもしれません。マサカズさんは、900万円で「最後まで自宅で暮らす準備」をしたといえます。

 

厚生労働省「家庭内における主な不慮の事故の種類別にみた年齢別死亡数・構成割合」によれば、高齢者の家庭内事故の多くは「寒暖差」や「段差」によるものです。900万円のリフォームによる断熱改修は、ヒートショックのリスクを低減させ、将来的な医療・介護費の増大を抑制する側面を持っています。これは「子どもに介護の負担をかけないための投資」という見方もできます。

 

マサカズさんが免許返納を拒み、900万円を投じたのは、息子たちのいう「合理性」よりも、自分の「今日一日の安心」を優先せざるを得なかったからかもしれません。

 

子どもに負債を残したくないという気持ちと、いまの自分を壊したくないという本能。その板挟みのなかで、彼はリフォームという形で一つの区切りをつけました。この決断を単なるわがままと切り捨てるのではなく、高齢者が直面する「住み替えの限界」という、日本社会が抱える構造的な痛みとして理解する必要があります。

 

【短期償却】5月20日(水)オンライン開催

《所得税対策×レバレッジ投資》
インフラ活用で節税利益を2倍にする方法

 

【資産運用】5月23日(土)オンライン開催

《想定利回り16%×減価償却》
沖縄・宮古島の観光特需を取り込む「シェアカー投資」