(※写真はイメージです/PIXTA)
資産2億円を保有する男性の日常
「通帳の残高が、先月より少しでも減っているのを見るのが耐えられないんです。一度減り始めると、坂道を転げ落ちるように資産が底をつくのではないかという不安に、四六時中つきまとわれます」
都内の住宅街に住む高橋正道さん(70歳・仮名)は、自身の資産状況と日々の生活について、淡々と話し始めました。
高橋さんは現役時代、中堅商社の管理職として、一線で指揮を執り続けてきました。退職金と現役時代からの投資によって、預貯金は1億円ほど。さらに自宅の価値も合わせると、昨今の不動産価格の上昇により、2億円を超えているといいます。
自宅のガレージには1,000万円を超えるドイツ製の高級SUVが停まっています。しかし、その所有理由と実態には大きな矛盾があります。
「私くらいの年齢なら、軽自動車のほうが乗りやすいんでしょうけど、これを手放して軽自動車に乗り換えたら、周囲から落ちぶれたと思われる。そんなことになったら悔しくて、今でも維持しています。ただ、ガソリン代も乗るだけかかる。もったいないと思い、今ではほとんど乗らない置物です」
また、高橋さんの日常的な食生活は、その資産規模に見合うものではありません。
「自炊はしません。そもそも料理はできませんし、ガス代も水道代もかかりますから。夜、スーパーの閉店間際に行って、半額になったパンや見切り品の惣菜を1つ2つ買うのが日課です」
高橋さんのように、はたから見たら余力があるにもかかわらず、強い老後不安を抱え、消費を極端に抑え込む富裕層は少なくありません。
金融経済教育推進機構『家計の金融行動に関する世論調査(2025年)』によると、70代世帯の67.3%が老後の生活に不安を感じています。さらに、年間収入1,200万円以上の高収入層であっても6割以上(62.2%)が同様の不安を抱き、金融資産の目標残高を平均9,725万円と極めて高く設定しています。
彼らの不安の背景には、「物価上昇への懸念」(38.8%)だけでなく、「十分な金融資産がない」(45.0%)といった、客観的な事実とは乖離した認識があります。将来への高い理想と見栄、そして「いくらあっても安心できない」という心理に囚われ、生活水準を落としてまで通帳の残高維持に執着してしまう構図が浮かび上がります。
厚生労働省『令和6年簡易生命表』によると、70歳男性の平均余命は15年以上あります。将来、介護が必要になり月々数十万円の費用がかかるようになったら……。そう考えると、今の資産ですら、決して安心できる金額だとは思えない――。
「誰にも頼れない独り身ですから、数字だけが唯一の味方です」