生命保険文化センターの調査によれば、老後の生活資金に不安を感じている人は全体の7割以上に上ります。「何歳まで生きれば得か」という損益分岐点ばかりが注目されがちな年金の「繰下げ受給」ですが、夫と揃って70歳まで受給を遅らせたヨウコさん(仮名・75歳)は、夫が71歳で急逝したことで親戚から「損をしたね」と心ない言葉をかけられました。しかし、彼女の口から出たのは後悔ではなく、夫への感謝でした。損得勘定では測れない、年金繰下げがもたらした「本当の安心感」とは。
71歳夫が急逝…「繰下げ受給したのに損だね」親戚の心ない言葉をよそに、75歳妻が〈年金月16万円〉に感謝するワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

繰下げ受給で増額された「月16万円」が残された妻の生活の支えに

年金の受給を遅らせた分を取り戻すには、一定の年齢まで長生きする必要があります。しかし、ヨウコさんは数字上の損得よりも、現在の生活の安定に目を向けているといいます。

 

もし65歳から年金を受け取っていれば、ヨウコさんの年金は月に10万円ほどでした。しかし現在、繰下げ受給で増額された自身の年金と、夫の遺族厚生年金を合わせると、月約16万円を受け取っています。

 

「16万円ももらえると、一人暮らしの生活費としては十分です。生活のために貯金を取り崩す不安がないというのは、老後を過ごすうえで安心感につながっています」

 

繰下げ受給によって増額された年金のおかげで、ヨウコさんは経済的な不安を抱えることなく過ごせているといいます。コウジさんの死から数年経った現在、地域のボランティア活動に参加し、そこで出会った友人たちと交流しながら、前向きに日々を送っています。

 

「夫とはもっと一緒にいたかったですが、年金の繰下げ受給を選択したことに後悔はありません。私のこれからの生活をしっかりと守ってくれていますから」

データが示す、老後生活における「損益分岐点」以外の視点

「年金が少ししかもらえなくて損した」という言葉を気に留めず、ヨウコさんが現在の生活に満足している背景には、高齢期の「お金の不安」に関する統計が関係しているといえそうです。

 

公益財団法人生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査(令和6年)」によると、老後の生活資金に対して「不安(少し不安・非常に不安)」を感じている人は全体の73.1%に上ります。また、内閣府の「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」では、高齢者の61.2%が日々の生活費のために「預貯金の取り崩しをしている(よくある・時々ある)」と回答しています。これらの数値から、長生きするほど貯蓄が目減りしていくことに恐怖を抱く高齢者が多いことが推測されます。

 

その一方、同調査において預貯金の取り崩しが「ほとんどない(83.8%)」「全くない(85.0%)」と答えた高齢者は、自身の現在の経済的な暮らし向きについて「心配なく暮らしている」と答える割合が8割以上と高い結果となっています。つまり、「毎月の年金だけで生活が成り立ち、貯金を取り崩す不安がない」という状態こそが、老後の精神的な安定につながる要因であると読み取れます。

 

年金の繰下げ受給は、どうしても「何歳まで生きれば得をするか」という損益分岐点ばかりが注目されがちです。しかし、コウジさんが長年働き続けて年金の受給額を増やした決断は、残されたヨウコさんに「日々の経済的な不安からの解放」という、数字上の損得では測れない安心感を結果的に残したといえるでしょう。

 

長寿化に伴い一人暮らしの高齢女性が増加するなか、目先の損得勘定にとらわれず、将来の「生活の安定」を優先した夫婦の選択は、老後資金設計の一つの重要な視点であるといえそうです。

 

[参考資料]

生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(令和6年)」

内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」

 

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