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「空っぽの冷蔵庫」に残された生活の痕跡
都内の中堅企業に勤務する佐藤哲也さん(52歳・仮名)。埼玉県の実家には、母・和子さん(81歳・仮名)が一人で暮らしています。高齢者の一人暮らしは、何かと心配が尽きません。「ちゃんと食べているのか」「お金は足りているのか」。そう尋ねると、和子さんは決まってこう繰り返していました。
「貯金が1,000万円ほどあるし、年金だって月20万円近くもらっているから大丈夫。あなたは自分の家族を優先しなさい」
事態が大きく動いたのは、和子さんが自宅で転倒し、大腿骨を骨折して緊急搬送されたことがきっかけでした。哲也さんは入院手続きを終えた後、着替えや保険証を探すために実家へ向かいました。そこで目の当たりにしたのは、自身の認識とはあまりに乖離した、数々の違和感でした。
「台所のテーブルに、使い古したノートが置いてありました。母がつけていた家計簿です。そこには『卵、208円』『もやし、19円』といった、数十円単位の支出が緻密に書き込まれていました。ただ、買い物の履歴がほとんどなくなるタイミングがあることに気づいたのです」
それは偶数月の15日、そのだいたい2週間前からでした。偶数月の15日というのは、年金の振込日です。何となく嫌な予感がして、次に冷蔵庫を開けてみたといいます。そこに広がっていたのは、想像もしなかった異様な光景でした。
「中はほとんど空でした。棚の中央に、数口分のご飯を水でふやかした小皿が1つ置かれているだけ。ドアポケットには、最後の一滴まで使い切るためにハサミで半分に切断されたマヨネーズの容器が、洗って置いてありました。野菜室には、新聞紙に幾重にも包まれた、指先ほどの大きさのニンジン。母が極限の節約をして生活をしていたことがわかりました」
さらに母の財布を確認すると、入っていたのは小銭ばかりで、千円札すら一枚もありませんでした。仏壇の引き出しにあった通帳の残高は、わずか2,480円。次から次へと目に飛び込んでくる現実に、哲也さんは言葉を失いました。
厚生労働省『令和6年 国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯の平均所得金額は314万8千円であり、全世帯平均(536万円)を大きく下回っています。生活意識においても、高齢者世帯の過半数にあたる55.8%が生活が「苦しい」と回答しています。
さらに、高齢者世帯の所得の63.5%は公的年金・恩給が占めています。受給世帯の43.4%が所得の100%を年金に依存していることから、経済的な厳しさが浮き彫りになっています。
「あのあと母にきちんと聞きました。1,000万円の貯金なんてなく、実際の年金も月12万円ほどだったといいます。昔はそれでやりくりできていたけれど、最近は物価高で、年金受給日の2週間くらい前にはお金が尽きてしまっていたそうです」