(※写真はイメージです/PIXTA)
「もっと早く辞めていれば…」妻の介護で痛感した“失った時間”の重さ
仕事を辞めて少し経ったころ、リョウコさんが突然倒れ、そのまま介護が必要な状態になってしまったのです。
「働き詰めで不摂生だった自分よりも、専業主婦として健康に気を遣っていた妻のほうが長生きするものだと思っていました。まさか、自分が介護をする側になるとは……」
リョウコさんが倒れてから、カズヨシさんは生活の大半を介護に充てています。デイサービスなども利用していますが、朝晩の介助はすべてカズヨシさんが担っています。日常のあらゆる場面で手助けが必要なリョウコさんを前に、カズヨシさんは増額された年金のありがたみを感じつつも、それ以上に失った時間の価値を痛感していました。
「たしかに月27万円の年金は、経済的な不安を和らげてくれます。でも、そのために失った時間は、どうやっても取り戻せません」
もし、65歳で仕事を辞め、すぐに年金を受け取って生活していたら。リョウコさんが元気で、一緒に笑い合い、何不自由なく出かけられたあの5年間。その貴重な時間を、自分はただお金を増やすためだけに会社に捧げてしまった。
「もっと早く仕事を辞めて、元気な妻と一緒に過ごす時間を作ればよかった。健康なうちに、もっとたくさん思い出を作っておきたかったです」
カズヨシさんは、介護の日々が続くにつれて、後悔の念が強くなるばかりだといいます。
データで見る「年金繰下げ受給」の実態と「健康寿命」という重要な視点
カズヨシさんが選んだ、年金の受給開始時期を遅らせる「繰下げ受給」という選択は、近年取り上げられることが増えましたが、客観的なデータから見ると少数派であることがわかります。
厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和6年)」によると、70歳時点で老齢厚生年金を繰下げ受給している割合は4.2%、老齢基礎年金のみの場合でも5.5%にとどまります。
また、将来の介護費用や老後資金の不安から、「少しでも年金額を増やしておきたい」と考えたカズヨシさんの判断は真っ当でしょう。内閣府の「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」でも、「自力で生活できなくなり、転居や有料老人ホームへの入居費用がかかること(43.1%)」や「自分や家族の医療・介護の費用がかかりすぎること(36.6%)」が高齢期の経済的な不安で上位に挙がっており、多くの高齢者が介護にまつわるお金の不安を抱えていると推測されます。
しかし、老後のプランを立てるうえでお金と同じかそれ以上に重要なのが、「健康寿命(健康上の問題で日常生活に制限のない期間)」というタイムリミットです。
内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、令和4年時点の女性の健康寿命は75.45年となっています。70歳まで働き続けたカズヨシさんにとって、退職後にリョウコさんと「健康で自由に動ける期間」は、平均してわずか5年半ほどしか残されていない計算になります。
カズヨシさんのように「月27万円」もの年金を受け取っても、一緒に楽しむ相手が健康でなければ、思い描いていた老後生活とは違ったものになるかもしれません。長寿化社会において、年金増額のために労働期間を延長することは有効な選択肢である一方、パートナーの健康寿命から逆算して「今しか作れない思い出(時間)」とのバランスを取ることが、後悔のないライフプランには不可欠であることを、この事例は示唆しているといえそうです。
厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和6年)」
内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」
内閣府「令和7年版高齢社会白書」
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