(※写真はイメージです/PIXTA)
出口戦略を失った含み益の罠
都内の専門商社で働く岡田慎一さん(45歳・仮名)と、広告代理店に勤務する妻の奈緒さん(43歳・仮名)。夫婦の世帯年収は約1,500万円で、7年前に購入した中央区・湾岸エリアにあるタワーマンションで暮らしています。
「駅から近く、職場へのアクセスもいいことが決め手でした。あとは、やっぱり眺望ですね。抜け感があるので、とても気に入っています」
しかし、昨今の物価高騰は、岡田さん一家の家計にも影響を及ぼし始めました。特に大きな負担となっているのが、マンションの維持費です。
「買ったときと比べて、管理費と修繕積立金が合わせて月3万円は値上げされました。人件費や資材費の高騰が理由ですから、仕方がないとは思います。でも、月々30万円ほどの住宅ローン返済に加え、さらに固定費が膨らむのは、心理的にも大きな負担でした」
毎月の支出増に疲弊していた夫婦は、現在の住まいを売却し、より維持費の安いエリアへ移ることも視野に入れ始めました。そこで興味本位で不動産一括査定サイトを利用したところ、提示された金額は「1億2,500万円」。7年前に約8,000万円で購入した物件が、4,500万円も値上がりしていたのです。
「査定額を見た瞬間は、妻と歓喜しました。維持費の値上げに頭を抱えていたのが嘘のように、自分たちは莫大な資産を築けていたのだと。ローンの残債を除いても手元に6,000万円以上残る計算でしたし、これならどこへでも住み替えられると思いました」
しかし、その高揚感は、実際の物件探しを始めてから数日で消え去ることになります。夫婦は現在の70平米から、子どもの成長に合わせた90平米超への住み替えを検討しましたが、希望条件に合う物件の価格は、自分たちのマンションの値上がりを遥かに上回る水準だったのです。
「近隣の新築は今や1億8,000万円から2億円が相場です。築10年前後の中古を探しても、1億5,000万円を超えていました。私たちの物件価格が上がる以上に、市場全体がさらに速いスピードで上昇していたのです」
奈緒さんは、当時の状況を淡々と語ります。
「含み益が6,000万円あっても、次の住まいを考えると、かなりの郊外になってしまう。共働きを続ける以上、職場へのアクセスを第一に考えたいのですが、そうなるとどこも買えそうにないんです。中古マンションですら1億円以上が当たり前。2馬力とはいえ、定年までローン返済に追われるのは得策ではないと判断しました」
今のところ、固定費の増額を受け入れながら、今のローンを払い続けるしかないと腹をくくっているといいます。