(※画像はイメージです/PIXTA)
デフレの恩恵はどこから来ていたのか
コンビニで984円のランチ代にため息が出てしまうTさん。ため息の原因は、単なる物価が高くなったことへの不満ではなく、生活の不安感に追い打ちをかけるような世間の物価高に恐怖さえ感じることにあります。
「オレは同世代のなかでは恵まれた人生のはずだったのに」そう嘆くTさん。「いつから、オレの人生は、こんなに余裕がなくなったんだ」。
メディアではデフレのことを問題視していますが、生活者としては少ない給料でも、それなりに楽しく暮らせる「牛丼280円の時代、マック80円の時代」は楽でした。地方に出張すれば、ビジネスホテルはシングルの朝食付きで5,000円以下の部屋が沢山みつかったほど。クオカード3,000円付きで8,000円のプランで予約し、会社から出張経費として8,000円で清算しクオカードは懐に入れる、そんなセコいことさえできた時代です。
しかし、そのデフレの恩恵の正体は、未来の自分から奪い取った「前借り金」でした。企業が成長を止め、賃金を据え置くことで成立していた安さのツケが、いま、猛烈なインフレと家族の介護、そして「資産もスキルも持たない自分」という形で一気に回ってきているのです。
「安く買える社会」とは、実は「自分が安く買われる社会」でもありました。「正規雇用の勝ち組」とされてきた層が、その構造に気づかぬままに、重い代償を払わされています。無防備なままでもうすぐ定年を迎えようとしている。――それが氷河期世代のもうひとつの姿です。
コンビニのレジで感じる、千円札一枚の頼りなさ。それは単なる物価高への愚痴ではなく、自分たちが信じてきた安定が終わりを告げたサインなのかもしれません。この国の多くの55歳が、いま静かに、それぞれの「984円」と向き合っています。
長岡理知
長岡FP事務所
代表
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