現代の日本では、物価高騰や社会保障への不安が広がる一方で、若者たちの価値観に大きな変化が生じています。かつての「立身出世」や「億万長者」といった野心は影を潜め、今、彼らが求めているのは驚くほど限定的で等身大な幸福です。ある親子のケースから、最新の調査によって浮き彫りになった現代の若者が描く「堅実すぎる将来像」をみていきます。
「父さん、タワマンなんて無理だよ…」〈年収1,000万円超え〉29歳長男が〈年収500万円〉を選んだ衝撃理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

「成功してほしかった」と嘆く父に息子は…

北関東の地方都市で建設会社を経営する岡崎正利さん(61歳・仮名)と、長男の慎二さん(29歳・仮名)。正利さんは、慎二さんが都内の私立大学を卒業後、大手広告代理店に就職し、20代にして年収1,000万円(残業代込み)を稼いでいることを誇りにしていました。職場近くのタワーマンションに住むエリートであることを、まるで自分のことのように周囲に自慢していたといいます。

 

しかし慎二さんは昨秋、東京での生活をすべて清算し、実家からほど近い隣町の外郭団体へ転職。地元へ戻っていました。転職後の年収は約500万円となり、手取り額は20万円台後半にまで減少。正利さんの目には、これが明らかな「キャリアの格下げ」に映ったそうです。

 

「お前なら、もっと東京で頑張れただろう。お父さんはてっきり、東京でタワマンでも買って、華やかな生活を続けるのだと思っていた。こんな地方で、この先どうするんだ?」

 

父の問いかけに対し、慎二さんは表情を変えず、淡々と答えました。

 

「タワマンなんて無理だよ。あんなものに億をかける意味がわからない。今は定時で帰れるし、週末にはゆっくり過ごせる。山や川に行くだけで楽しいし、お金もかからない。お金持ちになんてならなくていいから、ずっと今の平穏が続けばいい」

 

正利さんの世代にとって、仕事は自己実現の場であり、年収の向上や東京での成功は勝者の証でした。しかし、慎二さんの言葉に焦りや後悔の念は見られません。それどころか、膨大な業務量から逃れ、日々の仕事を確実にこなす現在の生活に、充足感を覚えているようでした。

 

慎二さんは東京時代の生活をこう振り返ります。

 

「東京にいた頃は職場でのミスが怖くて、毎日吐き気がしていた。上司との関係にも疲れた。今は給料は減ったけれど、東京にいた頃よりも広い家に住めるし、何よりも穏やか。親のそばで普通に暮らしていけたら幸せです」

 

東京時代の友人ともインターネットでの交流は続き、限られたコミュニティの中だけで生活は完結しています。地方に戻ってきたとはいえ、地域の活動に参加する意思はなく、職場でも深い人間関係を構築することは求めていないといいます。

 

「職場の人間関係は、あくまでも『職場のXXさん』でしょう。友人ではない。そうした相手と深く付き合っても意味がないと思うんです」

 

 

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