厚生労働省「国民生活基礎調査(令和5年)」によると、高齢者世帯の総所得に占める「公的年金・恩給」の割合は約63%にのぼり、約4割の世帯が年金のみで生活しています。月額22万円の年金で「十分だ」と考えていたトシオさん(仮名)でしたが、妻サチコさん(仮名)は「第二の収入源」を確保していて……。おしどり夫婦の仮面の下で、妻が進めていた「計画」とは?
「30年前から、決めていたの」年金月22万、おしどり夫婦の“隠しごと”。通帳をみた67歳・定年夫が唖然とした、63歳・専業主婦妻が密かに進めていた〈計画〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

「精神的な逃げ場」から「年収100万円の事業」へ

トシオさんは、サチコさんが差し出した通帳をみて、さらに唖然とします。そこには、自分の知らない800万円の残高と、毎月振り込まれる「8万円」の家賃収入が記されていました。

 

「これだけの収入があって、なぜ俺の扶養に入り続けられたのか?」

 

サチコさんは独学で調べて、しっかりと仕組みを整えていたのです。独身時代の貯金と母から譲り受けた200万円を、自分名義の口座で30年間運用していました。実家のリフォームには「空き家バンク」の補助金を活用し、残りの持ち出し分は数年かけて減価償却費として経費計上しました。さらに、固定資産税や管理委託料、火災保険料などを差し引くと、税務上の不動産所得は年間48万円以下に収まります。

 

所得がこの範囲内だったため、夫の所得税の配偶者控除の枠から外れることはなく、住民税の通知がトシオさんの給与や年金から合算されないよう、サチコさんは毎年自分で確定申告を行い、住民税を普通徴収にしていました。トシオさんは、妻が毎年春先に「ちょっと実家の野暮用で」と外出して確定申告を済ませていたことに、30年間気づきもしませんでした。

 

「最初は自分が住むつもりだったけれど、最近、地方移住を希望する若い世代が増えたでしょう。試しに地元の不動産業者に相談したら、庭付きの戸建て賃貸としてすぐに借り手がみつかったの」

 

サチコさんの実家があったのは、長野市近郊の、アルプスを望む景観のいいエリアでした。かつてはただ不便なだけのイメージでしたが、リモートワークの普及と地方移住ブームが風向きを変えました。サチコさんは、母の遺産を使って水回りを最新のものにリフォームし、庭にはあえて手つかずの家庭菜園スペースを残しました。これが、東京から移住を希望していたITエンジニアの若い家族のニーズに合致したのです。

 

いまではその家族が、月8万円でその家を借りています。空き家バンクの補助金も活用し、修繕費の大半を回収。年間約100万円の純利益を生む事業として、成功を収めていたのです。

30年間の沈黙が生んだ「経済的地位」の逆転

トシオさんは、妻に嘘をつかれたことへの怒りよりも、「自分が無価値だと思っていたものが、妻の手によって立派な収益資産に化けていた」ことへの驚きが勝りました。

 

日本の法律では、結婚前の貯金や個別の相続分は「特有財産」と呼ばれます。サチコさんはこの財産をトシオさんの管理から完全に切り離し、自分の判断で運用し続けました。夫に開示する義務はなく、彼女が自分の責任で不動産賃貸業を始めたことに問題はないでしょう。

 

トシオさんは、自分が家計の主導権を握り、すべてをコントロールしていると思っていました。しかし実際には、サチコさんはトシオさんの正論による支配を回避するために、30年かけて自分だけの資産を確立していたのです。年金月22万円は二人で暮らすには十分ですが、サチコさんには「月8万円の個人収入」と「800万円の余剰資金」があります。

 

トシオさんがこれほどショックを受けたのは、隣でニコニコと家事をこなしていた妻が、実は自分よりも遥かに現実的な経済感覚を持ち、虎視眈々と自立の準備を進めていたという事実を目の当たりにしたためです。二人はおしどり夫婦といわれていましたが、その実態は一方が相手に合わせることで調和を保っていることで成り立つものでした。

 

サチコさんの30年は、トシオさんとの生活を継続するために、彼女が必要とした「自分自身の決定権」の確保です。結果としてその保険が事業として成功したいま、老後の二人の関係は「一方的な主導」から「自立した個としての対等」へと、アップデートされることになったのです。

 

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