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期待していた「理想の隠居」が、無償の重労働に変わるまで
都内の分譲マンションに暮らす渡辺和夫さん(65歳・仮名)は、昨年の3月に都内の代理店を定年退職しました。大学新卒から勤め上げた実績による退職金は3,200万円。貯金と合わせると6,000万円弱になります。専業主婦の妻・雅代さん(63歳・仮名)との合計年金受給額は月額28万円です。
「定年後は夫婦で47都道府県を巡る旅行を計画していました。一気に巡るのは大変ですから、1回の旅行で5〜6カ所ずつ回るような形です。思いを馳せて、本当に楽しみにしていたんです」
しかし、今のところ、その計画が実行に移されることはないといいます。原因は、渡辺さんの定年前に離婚をしたという長女の真由美さんです。「親の近くなら何かと心強い」と、家族3人(真由美さんと子ども2人)で渡辺さん夫婦の家からほんの数分のマンションに引っ越してきました。
育児休暇明けでフルタイム復帰を果たしたばかりの真由美さん。会社はいろいろと融通を利かせてくれるといいますが、そこに甘えてばかりもいられません。孫の保育園の送り迎えは、いつの間にか、じぃじとばぁばの役目となりました。さらに夕食から入浴の世話までは、和夫さんと雅代さんの役割に。急な残業で、預かり時間が夜の10時を回ることも珍しくないといいます。
「娘も必死ですから、応援しないわけにはいかない。でも、小さな子ども2人の世話は、年寄りにはこたえますね」
問題は体力面だけではありませんでした。日々の食費、おむつ代、週末にせがまれる玩具の購入費など、孫に関する細かな支出のすべてが、渡辺さん夫妻の財布から支払われているのです。
「娘に請求すればいいのかもしれませんが、彼女も余裕がないのを知っています。たまに娘が『これ、食費の足しに』と1万円ほど置いていこうとしますが、つい突き返してしまうんです」
和夫さんは、最近の家計簿を指して言葉を続けます。
「月28万円、手取りで24万円ほどの年金があれば、本来なら貯蓄を切り崩さずに生活できるはずでした。しかし、孫の習い事の月謝や教育資金の積み立てまで私たちが肩代わりするようになり、毎月10万円以上の赤字が出ています。貯金も、この1年で目に見えて減りました」
ある日の夜、孫が帰宅の間際に「おじいちゃん、明日も来るからね」と笑って帰ったあと、和夫さんは喜びよりも「また明日もこれが続くのか」という、恐怖に近い感情に襲われたといいます。
「子育ても同じでしたね。当時は必死で、早くこんな大変な時期が終わればいいと思っていたのに、今となっては後悔ばかり。孫についても今度こそ楽しもうと思うんですけど……」
経済的な負担の大きさが、肉体的な疲労以上に身に染みると和夫さんは吐露します。
