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介護の功労者」による周到な財産侵食
都内・大手メーカー勤務の内藤健一さん(52歳・仮名)。年収は1,200万円ほどで、都内で妻と娘の3人暮らし。千葉県の実家では、母・和子さんが1人暮らしをしていました。
そんな和子さんに軽度の認知症の兆候が現れたのは3年ほど前。内藤さんは近所に住む妹の伊藤美香(48歳・仮名)と話し合い、仕事で多忙を極める内藤さんに代わり、実務的な介護を妹が担うことにしました。その対価として内藤さんは月10万円を「介護報酬」として妹に支払い、さらに実家の光熱費や固定資産税もすべて負担することに決めたのです。
「母は月15万円ほどの年金がありますが、それは将来の施設入所費として貯めておくよう妹に伝え、通帳と印鑑を預けました。私は毎月10万円を欠かさず妹に振り込み、月1回の帰省時には『いつもありがとう』と食事をご馳走していたんです。妹も『お兄ちゃんは仕事に専念して。お母さんのことは私が見るから』と、常に献身的な態度を見せていました」
しかし、ある日、和子さんからの電話が平穏な日常を壊します。
「健一、ごめんね。私、もう死なないと、お金ないの……」
何を言っているのか意味がわからない内藤さんは、翌朝、実家に駆け付けます。和子さんは虚ろな目で「美香が、健一が仕事で大失敗をして、数千万円の穴埋めをしないといけない。お母さんの貯金も全部使い切っちゃったから、もう死んで保険金を作るしかないって……」と呟きました。
「そんな事実は一切ない」と否定しても、母は「美香が嘘をつくはずがない」とパニックに陥り、震える手で「空になった」と言い張る通帳を差し出しました。内藤さんは母を落ち着かせるため、そして妹の言葉の真偽を確かめるために、その通帳を持って銀行へ走ったのです。
窓口で記帳を行うと、内藤さんは目を丸くしました。そこには、1回30万~50万円という、生活費とはかけ離れた出金が繰り返されていました。3年間で引き出された総額は1,000万円以上。内藤さんはその足で妹の自宅に向かい、通帳を突きつけました。
「毎月10万円渡しているのに、なぜ母に嘘をついてまでお金を引き出したのか、問いただしたんです」
美香さんもまた、うつろな目をしながら答えました。「月10万? そんなんで足りると思ってんの? 認知症の親を毎日一人で見る苦労が、その程度で購えるわけないじゃない」と吐き捨て、「文句があるなら、明日からあんたがオムツを替えに来なさいよ!」と怒鳴り声をあげました。
美香さんの自宅の隅には、開けられていない高級ブランドの紙袋が山積みになっていました。出口の見えない介護ストレス、その心の穴を埋めるために買い物依存症となっていたのです。
「お兄ちゃんは綺麗な服を着てエリート面して……私だけがこの家に縛り付けられている」。お金で解決しようとしていた内藤さんは、自身の無知を深く恥じたといいます。
