共働きで走り抜けた現役時代を経て、定年後の「自分へのご褒美」として日本一周の旅を強行した男性。300万円をかけてフルリフォームした車で旅を始めますが、思いもよらぬ結果に。わずか3県で逃げるように自宅へ引き返した理由とは。
「自由を満喫している」と嘘をついて…定年後の日本一周を夢見た60歳夫が、陥った「車中泊」のワナ。豪華な内装より“温かい布団”、3県回ったところで妻が待つ自宅に帰ったワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

定年後の夢は、車で日本一周

「定年後は、この車で日本中を自由に旅するんだ」

 

長年勤め上げた会社を定年退職したヒロユキさん(仮名/60歳)は、眩しい太陽の下、ピカピカのワンボックスカーを前に宣言しました。現役時代は夫婦共働きで、がむしゃらに働いてきた日々。娘も独立し、ようやく手に入れた「自分だけの自由時間」に、彼の胸は高鳴っていました。

 

しかし、妻・レイコさん(仮名/60歳)の反応は冷ややかなものでした。

 

「私は車中泊なんて絶対にイヤ。一人で行ってきて」

 

共働きで互いを尊重してきた二人は、いまや「お茶飲み友達」のような、ほどよい距離感の熟年夫婦。ヒロユキさんはその言葉を「一人の自由を楽しめるチャンス」と前向きに捉え、300万円かけて内装をフルリフォームした愛車とともに、意気揚々と自宅を出発したのです。

「自由」という名の孤独と、身体の異変

旅の始まりは、まるでYouTubeで見た「バンライフ」そのものでした。静岡県の道の駅で富士山を眺めながらコーヒーを淹れ、車内に施されたこだわりの無垢材の香りに包まれる。ヒロユキさんは、レイコさんに「最高の自由だ! もう家には帰りたくないよ」と、景色のいい写真を添えてLINEを送りました。

 

しかし、最初こそワクワクとした気持ちで気がつかなかったものの、60歳の身体は静かに悲鳴を上げはじめていました。

 

最初の異変は、2県目の愛知県に入った夜。

 

「……眠れない」

 

豪華な内装を施したとはいえ、車内は深夜になると冷え込み、どこからか入り込む外気と外の音が耳に触ります。どれだけ寝床を平らに整えても、家の布団とは違う「硬さ」が、じわじわと腰を蝕んでいきました。