(※写真はイメージです/PIXTA)
大金の出所
あまりに場違いな大金を前に、「生活が苦しいと言っていたのは嘘だったのか? いや、でもこの暮らしぶりだし……」とタツオさんは困惑しました。するとシズコさんは、背筋をすっと伸ばして、こう告げました。
「生活が苦しいとは言ったが、息子に養ってもらうほど落ちぶれないよ。これは全部、あんたが送ってくれたお金だよ」
机の上には、タツオさんがこれまで15年間送ってきた720万円の全額が置かれていました。
母としての矜持
月9万円という限られた年金のなかで続ける生活は、彼女にとって実際、非常に苦しいものでした。
それでも彼女がタツオさんの仕送りに手を付けなかったのは、「自分のことは自分でする」という親としての強い誇りがあったからです。どれほど生活が苦しくても、息子が一生懸命に働いて稼いだお金を消費することには、抵抗がありました。
シズコさんが折に触れて「生活が苦しい」と口にしていたのは、嘘偽りのない実感でした。しかし、その苦しさよりも「息子のお金に頼りたくない、気持ちは有難く受け取って、もしものときに備えたい」という思いが勝っていたに過ぎません。この720万円は、タツオさんが母を想って送った15年間の証であると同時に、シズコさんが息子の万が一に備えて守り抜いたお金です。
自分が母を支えていたと思っていたのは慢心であり、実際には母の深い愛に守られていたのだと気づき、タツオさんは涙を堪えることができませんでした。
親子間の「自立」を問い直す
内閣府が公表した「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(2025年公表版)」によると、日本の高齢者の約70%が「子どもには金銭的な援助を期待しない、迷惑をかけたくない」と回答しています。シズコさんの行動は、この「親の自立心」が強く表れた結果といえるでしょう。
しかし、この美徳ともいえる自立心は、時に子ども側に「親の生活は安定している」という誤解を与えたり、どのくらい援助すべきなのかわからなくなったりといった、実態がみえなくなる事態を招く要因にもなり得ます。
タツオさんのケースでは、親の着ている半纏の傷みに気づいたときに、そっと新しいものを贈ったり、お金ではなく食料品を届けたりするコミュニケーションのほうが、親の自尊心を損なわずに済んだかもしれません。
もちろん、自由度の高い現金の仕送りを素直に喜んでくれる親御さんもいるでしょう。大切なのは、その親の性格やそのときの状況に合わせて、負い目を感じずに受け取ってもらえるかを見極めることです。場合によって、生活費として渡すのではなく、「孫のため」や「将来の予備費」といった名目にしたり、あるいは形のある「贈り物」に変えたりすることで、心理的なハードルを下げることができます。
現役世代も親世代も経済的なゆとりを失いつつある現代で、大切なのは親の「我慢」に甘えすぎないことです。タツオさんのようにあとから驚くのではなく、日常の些細な変化をきっかけにすること。お金を贈ることも、そうした日常の延長線上にある小さな変化から始めてみてはいかがでしょうか。
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