(※写真はイメージです/PIXTA)
仕事終わりに鳴った「1本の電話」
早番出勤の午後3時、退勤ボタンを押して帰宅しようとしていたマサノリさん(仮名/53歳)のスマートフォンが震えました。画面に表示されたのは、父が入居する介護付き有料老人ホームの名前。不穏な予感を抱きながら電話に出ると、電話口の声は沈んでいました。
「申し訳ありません。もう、うちでは限界です。お父様の退去をお願いしなければなりません」
その言葉は、マサノリさんが築き上げてきた平穏な日常を打ち砕くものでした。
誇り高き「企業戦士」だった父の変わりよう
父・アキラさん(仮名/82歳)は、金融業を営む会社で、“企業戦士”として定年まで勤めあげました。プライドが高く、いわゆる昭和の頑固親父。数年前に妻を亡くしてからも、「子どもの世話にはならん」と意地を張っていました。
しかし、たまにマサノリさんが実家を訪ねると、かなりの有様。そのため、週に一度は実家に行き、身の回りの世話をしていました。
こうしたなか、父が鍋にかけた火をそのまま忘れ、ボヤ騒ぎを起こしていたことが判明します。「父は一人では暮らせない」と判断したマサノリさんは、父を老人ホームに入れることにしました。
アキラさんの収入源は月15万円の年金のみ。退職金は住宅ローンの繰上げ返済に充ててほとんど残っていません。貯金は底を突きかけています。なのに、施設にはなかなか空きがありません。
ようやく見つけた施設の入居一時金は1,100万円、月額利用料は月24万円。マサノリさんは熟考の末、入居一時金を捻出するため、思い出の詰まった実家を売却することにしました。
「実家を売れば、一時金が払える。父さんも最期までプロのケアを受けられて安心だし、僕もこれでようやく自分の生活に集中できる」
マサノリさんは、入居と同時に実家の売却手続きを進めました。運よく土地と建物は買い手が付き、建物は取り壊されて更地に。こうしてアキラさんは「終身契約」を謳う老人ホームへと居を移し、マサノリさんはやっと肩の荷が下りたのです。
