(※写真はイメージです/PIXTA)
「働くのは損」という言葉を信じて一線を退いた後悔
神奈川県在住・小林和夫さん(66歳・仮名)。平日の午後、近所のホームセンターを目的もなく歩くのが日課になっています。小林さんは2年前、中堅の専門商社を定年退職しました。現役時代は物流部門の責任者を務め、年収は900万円前後を維持していました。
退職時、小林さんは会社から再雇用を打診されましたが、それを断り完全に引退する道を選びました。背景にあったのは、現役時代から先輩や同僚の間で語られていた「年金をもらいながら働くと、結局は損をする」という先入観でした。
「現役のころ、社内では当たり前のように言われていたんです。給与と年金の合計が一定額を超えると、せっかく納めてきた年金がカットされてしまうと。それなら、わざわざ現役時代の半分程度の給料で再雇用され、税金や社会保険料を引かれながら働くよりも、家でゆっくりして年金を全額受け取ったほうが賢い選択だと思い込んでいました」
小林さんの現在の公的年金受給額は、月額で約18万円です。夫婦二人の生活費としては決して余裕があるわけではなく、貯蓄を切り崩す日々が続いています。何より、責任ある仕事を任されていた日々から一転し、社会との接点が希薄になったことで、拭いきれない物足りなさを感じるようになっていました。
そんな折、小林さんはかつての同僚である田中雅之さん(66歳・仮名)と都内の居酒屋で再会します。田中さんは小林さんと同時期に定年を迎えましたが、現在は当時培った物流コンサルティングの知見を活かし、現役時代と変わらぬ多忙な日々を送っています。
「彼の顔つきは、私とはまったく違いました。今は複数の物流業者から業務委託を受け、現場の改善指導を行っているそうです。酒の席で、つい現在の収入の話になりました。彼は、今の月収は50万円ほどだと言ったんです。私は驚いて、そんなに稼いだら年金が止まってしまうのではないかと聞き返しました」
小林さんの問いに対し、田中さんは「年金は1円も減っていない。フリーランスだからな」と返答。そこで小林さんは、自分が信じていた「働きながら年金を受け取ると減額される」というルールは、会社員として厚生年金に加入している場合に限られるのだと初めて知ります。
小林さんは帰宅後も、田中さんの生き生きとした表情と、自分が信じていた「働いたら損」という言葉の乖離について、一人で考え続けていました。