(※写真はイメージです/PIXTA)
妻が許した理由と、逆転した夫婦のヒエラルキー
長い沈黙のあと、ユキさんははっきりと告げました。
「あなたの裏切りは一生忘れないし、心から許すことはないわ。でも、離婚はしないであげる」
ホッと泣き崩れるテツヤさんに、ユキさんはさらに条件を突きつけました。
「その代わり、これからのルールを決めます。お金の管理はすべて私がすること。これからの家事はあなたがメインでやること。私は自由に友達と旅行に行かせてもらうし、趣味も楽しむ。あなたに一切文句はいわせない」
「わかった。これからはお前のために生きるよ」
こうして、ユキさんは「夫を許した心の広い妻」という優位な立場を手に入れました。現在、テツヤさんは毎朝ゴミ出しをし、ユキさんが留守のあいだは掃除や洗濯をこなしています。ユキさんは、月に一度は友達と高級ランチや温泉旅行へ出かけ、一切の罪悪感なく自由を謳歌しています。
「離婚してカツカツの生活を送るより、負い目のある便利な『家政夫』と潤沢な資金を手に入れたいまの生活のほうが、ずっと快適よ」ユキさんはそう笑って話しています。
熟年夫婦のさまざまな夫婦のかたち
厚生労働省の「令和6年(2024年)人口動態統計」をみると、現代の夫婦が直面している現実が浮かび上がります。同居期間30年以上の離婚はこの20年あまりで2.3倍に急増していますが、専業主婦にとっての熟年離婚はハイリスクです。資産を半分に割ったとしても、就労経験がなかったり短かったりする妻にとって、長生きリスクをカバーしきれず、老後破産に直面するケースは少なくありません。夫婦の資産は「二人で一緒に使うからこそ」生活の質を維持できるという経済的な現実があります。
定年というタイミングで過去の罪を告白した夫。夫からすれば「隠し事をなくして、スッキリした気持ちで妻と第二の人生を歩みたい」という誠意のつもりだったのでしょう。しかしこれが、自分の罪悪感を軽くしたいだけの身勝手な自己満足であることをユキさんは見抜いていました。ユキさんは、夫の身勝手さを逆手にとることで、夫婦間のパワーバランスを完全に逆転させました。
熟年期に差し掛かった夫婦において、過去の過ちを「どう使うか」はそれぞれ。離婚に踏み切らず、心理的な絶対優位を手に入れたユキさんのしたたかさは、長年の鬱憤を晴らす効果的な復讐なのかもしれません。