「年金が増額される」という朗報に胸を弾ませ、銀行へ向かった77歳女性。しかし、記帳した通帳に刻まれていたのは、期待とは裏腹に「前回より減っている」という不可解な数字でした。額面上は確かに増えているはずなのに、なぜ手元に残るお金は減ってしまうのか――理由を紐解いていきます。
「年金は増えたのに苦しい…」年金16万円・77歳女性、貯金通帳を二度見。年金増額の喜びを打ち消した「予期せぬ通知」の中身 (※写真はイメージです/PIXTA)

額面と手取りの「乖離」が生じる仕組み

加藤さんが驚愕した原因は、年金の「額面(総支給額)」と「手取り(受取額)」の乖離にあります。年金受給者の多くは、介護保険料や後期高齢者医療保険料が、口座に振り込まれる前に差し引かれる「特別徴収(天引き)」の対象となっています。

 

現在、厚生労働省の「第9期介護保険事業計画(2024~2026年度)」に基づき、全国の自治体では介護保険料の基準額改定が行われています。同省の集計によれば、第9期の全国平均月額は6,000円を超え、制度開始以来の上昇傾向が続いています。

 

さらに、後期高齢者医療制度においても、現役世代の負担軽減を目的とした「賦課限度額」の引き上げや、所得割率の段階的な見直しが、この2026年度に適用されています。

 

ここで注意すべきは、年金の増額が「所得区分の境界線(ボーダーライン)」を押し上げてしまうリスクです。

 

たとえば、介護保険料は所得に応じて段階(ステージ)が分かれています。年金の額面が数千円増えたことで、所得区分が一段階上のステージに移行してしまうと、保険料が年間で数万円単位で跳ね上がることがあります。この場合、年金の増額分よりも保険料の増加分が上回り、結果として手取りが減る現象が発生します。

 

また、住民税についても同様です。年金額の増加により「住民税非課税世帯」から「課税世帯」へ転じてしまうと、それまで免除されていた自治体の各種減免制度や、高額療養費の自己負担限度額の優遇が受けられなくなります。

 

2026年4月現在のデータを見ると、物価スライドによる年金増額の恩恵を、これらの「見えないコスト」が食いつぶしている実態が浮き彫りになります。内閣府の「高齢社会白書」や各自治体の統計資料を紐解けば、高齢者世帯の可処分所得は、名目上の年金受給額ほど伸びていないのが現実です。

 

「年金が増える=生活が楽になる」という認識は、必ずしも一致するとは限りません。受給者が確認すべきは、改定率という表面的な数字ではなく、通知書の右側に記載された「特別徴収(天引き)」項目の詳細なのです。