(※写真はイメージです/PIXTA)
40代娘を翻弄する「父のSOS」の中身
埼玉県内のマンションで夫と2人で暮らす加藤奈緒さん(46歳・仮名)は、半年前、独り身で暮らす父・昭雄さん(74歳・仮名)に最新のスマートフォンをプレゼントしました。4年前に妻(奈緒さんの母)を亡くし、3年前に仕事を完全にリタイアした昭雄さん。プレゼントの主な目的は、離れて暮らす娘との「安否確認」でした。しかし、この善意が奈緒さんの生活を大きく変えることになります。
ある週明けの月曜日、夜21時過ぎのことでした。奈緒さんのスマホに、昭雄さんから一通のショートメッセージ(SMS)が届きます。
「たすけて」
簡潔すぎる文面に血の気が引いた奈緒さんは、すぐに昭雄さんの携帯に電話をかけました。しかし、呼び出し音は鳴り響くものの、一向に受話状態になりません。何度もかけ直しましたが、結果は同じ。最悪の事態を覚悟した奈緒さんは、パジャマの上にコートを羽織り、車を飛ばして15分ほどの距離にある実家へと向かいました。
「お父さん、大丈夫⁉」
合鍵で玄関を開け、リビングに飛び込んだ奈緒さんの目に飛び込んできたのは、ソファに座り、テレビを眺めながら困惑した表情でスマホを握りしめる昭雄さんの姿でした。外傷もなく、意識もはっきりしています。
「ああ、奈緒か。すまないな、これが出られないんだよ」
昭雄さんは、手元のスマホを奈緒さんに差し出しました。画面には奈緒さんからの着信履歴が並んでいます。昭雄さんは、着信時に画面に表示される「スワイプして応答」という操作が理解できず、いくら画面を指で叩いても電話に出ることができなかったのです。
「ふざけないで! 『助けてくれ』なんて送るから、倒れたのかと思った」
奈緒さんが安堵と怒りの混じった声で伝えると、昭雄さんは悪びれる様子もなくこう答えました。
「電話に出られないんだから、助けてもらうしかないだろう。お前が設定したこの機械が動かないんだから、お前が責任を持って直すべきだ」
この夜を境に、昭雄さんによる呼び出しは日常化します。平日の勤務中や夕食時を問わず、「画面が暗くなった」「変なマークが出た」という理由で連絡が入るようになりました。
奈緒さんが電話越しに「そこを長押しして」と説明しても、昭雄さんは「専門用語はわからない。とにかく今すぐ来てくれ」と譲りません。実家に駆けつけると、原因は単なるマナーモードの設定ミスや、充電ケーブルの接触不良といった数秒で解決するものばかり。しかし、昭雄さんは作業が終わっても奈緒さんを帰そうとしません。「せっかく来たんだから」と話し続け、気づけば2時間以上が経過していることも珍しくありません。
「父にとってスマホの不具合は、私を呼び出すための『正当な口実』になっています。自分で解決しようとする意欲なんてないんです」
連絡が来ても無視するというのも手かもしれませんが、本当に倒れたときに気づけないかもしれない……。そう思うと、どうしても昭雄さんからの連絡には出てしまう。そしてどうでもいいSOSにため息が出る。その繰り返しだといいます。