定年退職を機に、退職金を使って地方の築40年木造アパートを購入したシゲルさん(60歳・男性)。「これからは不労所得で最高の老後だ」と豪語し、妻の反対を押し切ってまで大家業をスタートさせます。最初の数ヵ月こそ満室で順調だったものの、翌年の春、思いもよらない「ある発表」を機に状況は一変。業者の甘い言葉を鵜呑みにした結果、休む間もなく働き続ける羽目になったシニア夫婦の過酷な現実と後悔を紹介します。
「これからは不労所得だ」妻の反対を無視して〈退職金2,000万円〉で大家になった60歳夫の誤算…〈想定外のトラブル〉で夢破れ、休む間もなく深夜労働に向かう「過酷な日々」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「毎月赤字です…」空室と高額な修繕費に震え、深夜の警備員バイトへ

翌年の春、近くの大学が「キャンパスの一部を移転する」と発表したのです。それを機に学生の退去が相次ぎ、10室あった部屋の半分以上が空室になってしまいました。

 

新たな入居者を募集しようにも、築40年という古さがネックとなり、家賃を下げなければ見向きもされません。それどころか、築古の木造物件ならではの致命的なトラブルがシゲルさんを襲います。

 

「外見は綺麗でも、建物の内側がボロボロだったんです。雨漏りがしてカビが生え、床下からはシロアリの被害も……。そのたびに何百万円という修繕費の請求が来ました。不労所得どころか、毎月赤字です……」

 

家賃収入は減っているのに、銀行へのローン返済と管理会社への手数料の支払いは続いていきます。空室とローン返済による赤字が家計を圧迫。不足分は手元の貯金1,300万円から取り崩すしかなく、あっという間に老後の生活資金は半分以下になりました。

 

「ローンを返すために、深夜の警備員のアルバイトを始めました。昼夜逆転の生活で疲れ果て、家では話す気力もありません」

 

シズエさんは、シゲルさんがいない昼間の時間帯にスーパーのレジ打ちパートに出て生活費を稼いでいます。

 

「老後は夫婦で温泉旅行にでも行こうと話していたのに……。業者の甘い言葉を信じて、退職金を投資につぎ込んでしまったことを夫婦で後悔しています」

高齢期の「収入のための労働」の実態

内閣府の「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」によると、現在の経済的な暮らし向きについて「家計にゆとりがなく、多少心配である」または「家計が苦しく、非常に心配である」と答えた人は、全体の30.7%にのぼります。

 

見通しの甘い投資の失敗などによって老後資金が減少すると、シゲルさん夫婦のように日々の生活費やローン返済に追われることになるでしょう。実際に同調査でも、日常生活において収入より支出が多くなり、これまでの預貯金を取り崩してまかなうことが「よくある」「時々ある」と答えた人は全体の61.2%を占めており、多くのシニアが老後資金を徐々に減らしていることがわかります。

 

こうした経済的な余裕のなさは、高齢期の働き方や労働負担にも直結します。収入を伴う仕事をしている主な理由として「収入のため」を挙げる人は全体で55.1%ですが、暮らし向きが「家計が苦しく、非常に心配である」人に限ると、その割合は74.0%にまで跳ね上がります。

 

さらに、家計が苦しい層ほど労働日数や時間が長くなる実態も、データでは浮き彫りになっています。「家計が苦しく、非常に心配である」人の68.5%が週に「5日以上」働いており、働く理由が「収入のため」である人の1週間あたりの平均就業時間は32.7時間と、就業者全体の平均(29.6時間)を上回っています。

 

シゲルさんがローン返済のために深夜の警備員アルバイトを始め、疲労困憊しているように、退職金の大半を失ってしまうと、高齢になっても休む間もなく体力的な負担の大きい労働を余儀なくされるリスクがあります。「不労所得」という言葉に、安易に飛びつくのではなく、最悪のリスクも想定した慎重な資金計画が求められるでしょう。

 

[参考資料]

内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」