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「親のかつての常識」と、統計が示す「子の現実」
田中さんの事例は、80代の「逃げ切り世代」と50代の「氷河期世代」との間にある、仕事環境や経済状況の違いを明確に示しています。
東京商工リサーチの調査(2025年発表)によると、上場企業の早期退職者の募集は、単なる業績不振だけでなく、組織の若返りやAI導入を目的とした「黒字リストラ」として日常的に行われています。株式会社ヒューマネージが約340万人分のデータを分析した『働く人のストレス調査(2026年3月発表)』によると、2020年と2025年を比較して、40代・50代以上の「ストレス反応」は悪化傾向にあります。特に「働きがい」や、自身の技術が仕事で活かせているかを示す「技能の活用度」の項目において、若年層との差が大きく開いています。同社は、AI活用やDX化の進展により求められる役割が変化し、ミドル・シニア層が「経験を活かしにくい」と感じていることが、働きがいの低下につながっていると分析しています。
業績が良くてもリストラの対象となり、AIの台頭に疲労感を抱く――逃げ切り世代の80代にとっては、想像もできない状況でしょう。
また、貯蓄などの経済的な状況の違いも、話し合いを難しくする要因です。総務省『家計調査 貯蓄・負債編 2024』によると、世帯主が70歳以上の世帯の貯蓄額は、平均で2,441万円。一方で50代世帯は平均1,798万円と、親世代の7割に留まります。さらに負債は70歳以上世帯で平均56万円に対し、50代は729万円。教育費や住宅ローンの支払いが重なり、老後のための貯蓄が親世代のように順調には進んでいない層が一定数存在します。そのような不安定な状況に置かれているのが、現在の50代なのです。
さらに、こども家庭庁『我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査(令和5年度)』では、日本の親は他国と比べて「子の成功を自分自身の評価」と考えてしまう傾向が強いことが示されています。英二さんの言葉は、まさにそんな意識を表したものといえるでしょう。
50代の子が優先すべきは、親のプライドを守ることではなく、AIの普及によって変化する社会で自分たちの生活を維持することです。統計データが示す厳しい現実を親が理解できない場合、親の意見をあえて聞き入れず、自ら判断することが共倒れを防ぐための現実的な手段となります。
親世代が持つ価値観と、現在の統計が示す実態には、明らかな乖離があります。田中さんのように連絡を断つという行為は極端かもしれませんが、認識のズレが解消されない以上、避けられない選択だったのかもしれません。