終身雇用が当たり前だった親世代と、激変する労働環境に身を置く子世代。両者の間には、想像以上に価値観の相違が存在します。かつての成功体験が通用しない現代において、親の願望と子の現実は、時としてすれ違いを生むことも。ある親子のケースから世代間ギャップの正体に迫ります。
二度と敷居を跨ぐな!83歳父が大激怒。「月収58万円」50歳息子、黙って頭を下げ「実家と絶縁」を選んだ理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

80代「逃げ切り世代」の価値観に、50代「氷河期世代」の悲鳴

東京都内のIT企業に勤務する田中大介さん(50歳・仮名)。半年前から実家の父・英二さん(83歳・仮名)と連絡を絶っています。きっかけは、大介さんが切り出した「早期退職」の相談でした。大介さんは1998年に大学を卒業した、就職氷河期世代の真っ只中にいます。厳しい採用枠を勝ち抜き、現在の会社で30年弱勤務してきました。現在の月収は58万円。大企業勤務の大卒サラリーマンとしては平均的な水準ですが、世間的には「勝ち組」に分類される層です。

 

しかし転機となったのが、昨年、会社が発表した「構造改革に伴う特別退職優遇制度」でした。大介さんはその対象になったのです。同時に、生成AIの導入による業務フローの刷新が進み、大介さんが長年積み上げてきた管理業務の多くが自動化の対象となりました。会社からは「残るなら全く未経験の技術職へのリスキリングが必要」と通告され、大介さんは退職金が加算される今のうちに、異業種へ転身することを検討していました。

 

実家の居間でこの考えを伝えた際、英二さんは大介さんの話を遮るようにして声を荒らげました。

 

「ふざけるな。せっかく入った大手企業を自分から辞める奴があるか。お前がそんなに根性なしだとは思わなかった。俺たちの時代は、定年まで勤め上げるのが当たり前だったんだ」

 

英二さんは高度経済成長期に大手ゼネコンで働き、終身雇用と年功序列が完全に機能していた環境で現役時代を過ごしました。大介さんが直面している、技術革新による職域の消失や、企業が「50代の余剰人員」を事実上整理し始めているという残酷な現実を、理解しようとはしませんでした。

 

「父さん、今は状況が違うんだ。会社に残っても、俺のこれまでのスキルはもう必要とされていない。無理に残るよりも、上乗せされた退職金を手に、別の道を探すほうが合理的だと思っている」

 

大介さんが冷静に説明を続けても、英二さんの態度は変わりませんでした。

 

「合理的なんて言葉で誤魔化すな。世間体が悪いだろう。近所の人には、お前が立派に部長を務めていると言ってあるんだ。辞めたら俺が嘘つきになる。親の顔に泥を塗る気か」

 

英二さんにとって、子の職業や肩書きは自分自身の社会的ステータスを裏付ける道具となっていました。大介さんは、自分の人生の選択よりも、父のプライドや世間体が優先されている事実に直面したのです。さらに英二さんは「親の言うことに従えないなら、二度とこの敷居を跨ぐな」と言い放ったといいます。

 

大介さんはそれ以上言葉を返すのを止め、黙って頭を下げ実家を出ました。それ以来、英二さんからの着信には一切応じていないといいます。