病気やけがなどで休職を余儀なくされた場合、多くの会社員は健康保険の「傷病手当金」を頼りにします。しかし実は、この制度だけではこれまでの生活水準を維持することは困難です。額面では「給与の約3分の2」が支給されますが、いざ給与を受け取る際、実際の手取り額に驚く人も多いようで……。本記事では健一さんの事例とともに、傷病手当金制度の落とし穴といまからできる対策について、FP dream代表FPの藤原洋子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、内容の一部を変更しています。相談者の名前はすべて仮名です。
月収の3分の2「47万円」受け取れるはずじゃ…月収70万円・45歳会社員夫が〈うつ病〉で休職。翌月、妻が「夫の給与明細」を見て打ちひしがれたワケ【FPが“傷病手当金の落とし穴”を警告】 (※写真はイメージです/PIXTA)

過信は禁物?「傷病手当金」に潜む落とし穴

会社員には、病気で働けなくなった際の強い味方「傷病手当金」があります。これは、連続して3日休んだあとの4日目から、最長で通算1年6ヵ月のあいだ、給与の約3分の2が支給される制度です。これを聞いて「収入の7割弱ももらえるなら、少し貯蓄を切り崩せばなんとかなる」と安心していませんか。

 

ここで見落とされがちなのが「手取りの罠」です。健一さんの場合で例をあげます。彼は月収70万円の会社員ですので、支給額は月額約47万円程度になります。しかし、休職中も健康保険料や厚生年金保険料の本人負担分は支払いが必要で、さらに住民税も前年の所得に基づいて課税されます。その結果、47万円の支給額から社会保険料や住民税で17万円程度が差し引かれ、手元に残るのは30万円ほど。もともとの手取り53万円と比べると、実質的に毎月23万円収入が減る計算になります。

 

住宅ローンの支払いが月20万円、子どもの教育費が月10万円かかっているので、家族全員の生活費や医療費は、真由美さんの収入(毎月の手取り20万円)で賄わなければなりません。傷病手当金を受け取っても、これまでの家族の生活を維持するにはあまりにも心もとない数字といわざるを得ません。

精神疾患の「長期化」が家計を直撃する理由

身体の病気やケガであれば、入院期間やリハビリの目安がある程度予測しやすいものです。しかし、精神疾患の最大の特徴は「出口の見えにくさ」にあります。

 

厚生労働省の「患者調査」(令和5年)によると、一般的な病気の平均在院日数が30日前後であるのに対し、精神および行動の障害による平均在院日数は290日(約10ヵ月)を超えています。近年は早期退院と通院治療への移行が進んでいるとはいえ、ほかの疾患に比べて療養が長期化する傾向は依然として顕著です。

 

さらに、子育て世代にとって深刻なのが「復職のハードル」でしょう。退院したからといって、すぐに以前と同じようにフルタイムで働けるとは限りません。医療機関などの「リワーク(復職支援)」プログラムで生活リズムを整えたり、職場復帰後も短時間勤務や残業制限などをしたりと、段階的に働き方を戻していくケースが一般的です。その間、ボーナスの減額や昇給の停滞が続くことで、生涯年収ベースでは数百万円単位の差が生じるケースも少なくありません。

 

そして、もう一つ見逃せない事実があります。前述のとおり、傷病手当金は最長でも1年6ヵ月で支給が終了するという点です。

 

つまり、療養が長期化した場合、ある日突然「夫の収入がゼロになる」というリスクが潜んでいます。住宅ローンや教育費など、固定費の大きい家庭ほど、その影響は深刻になります。傷病手当金は確かに重要なセーフティーネットですが、これまでどおりの生活水準を維持するには、決して十分とはいえないのが現実なのです。

 

病気やケガは、誰にでも突然訪れる可能性があります。だからこそ、万一の収入減に備えた貯蓄や家計の余裕を、平時のうちから意識しておくことが重要です。制度があるから安心ではなく、制度だけでは足りないかもしれない可能性を知っておきましょう。