定年後の暮らしを豊かにするために選んだ、都心の新築一軒家。十分な退職金と安定した年金収入を背景に、理想の住み替えを実現したはずの夫婦が、わずか半年で後悔に包まれる……憧れの設備が思わぬ負担となり、平穏な日常に影を落とす実態から、シニア世代が陥りやすい住まい選びの落とし穴について見ていきます。
年金月25万円・退職金2,200万円の60歳夫婦が「都内の屋上庭園付き一軒家」へ転居…半年後、帰省した娘が目にした〈残念な光景〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

都心×狭小住宅への「住み替え」の想定外

山下さん夫婦のように、都心への住み替えや屋上庭園の設置は、一見華やかに見えても老後の家計を深刻に圧迫する「見えないリスク」が潜んでいます。

 

まず「固定資産税の逆転現象」です。郊外の広い家から都心の狭小住宅へ移っても、地価(評価額)の格差により、毎年の税負担が軽減されるどころか数倍に膨れ上がるケースは珍しくありません。

 

そして、屋上庭園が「負の資産」になりかねないという事実。屋上庭園は通常の防水層の上に土壌や植物を載せるため、日本防水工法開発機構(JWMA)などの専門機関も指摘するように、メンテナンスの難易度とコストが跳ね上がります。150万円単位の修繕費は、年金生活者にとって重い一時支出です。

 

さらに「予備費の枯渇」も懸念されます。月々1.5万円を「屋上維持」だけに割くと年間18万円、10年で180万円になります。本来、この資金は将来の医療費や介護サービスの自己負担分として確保しておくべき性質のものです。

 

また、屋上で楽しむはずだったバーベキューを自粛せざるを得なくなった背景には、都市部ならではの「音」への敏感さがあります。

 

株式会社ヴァンガードスミス『近隣トラブルに関する実態調査(2024年9月)』によると、過去に経験した近隣トラブルの種類として、約7割(68.8%)の人が「生活音/騒音関連」と回答しており、他のトラブルを抑えて圧倒的1位となっています。

 

さらに、こうした騒音関連のトラブルは一度発生すると深刻化しやすく、同調査では半数以上(50.5%)が「1年以上継続している」という実態も明らかになりました。住宅密集地の屋上という開放的な空間は、意図せずとも騒音の発生源になりやすく、平穏な老後を望むシニアにとって大きな心理的リスクを孕んでいます。

 

利便性を追求したはずの都心回帰が、住まいの構造や近隣環境によって「不自由な暮らし」を招くのは皮肉な結果です。

 

単なる憧れや付加価値で判断せず、数十年後の維持コストや周囲との距離感を現実的に見極める必要があります。「本当に必要な機能」を絞り込むことこそが、後悔しない住み替えの近道です。

 

[参考資料]

株式会社ヴァンガードスミス『近隣トラブルに関する実態調査(2024年)』