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統計が示す在宅介護の現実
美智子さんが感じた「安堵」や「解放感」は、決して彼女が冷酷だからではありません。厚生労働省『2022年(令和4年)国民生活基礎調査』によると、同居している主な介護者のうち「悩みやストレスがある」と回答した割合は、男性で41.7%、女性では54.1%に達しています。
特に身体的負担が重くなる要介護3以上の世帯では、悩みやストレスの原因として「家族の病気や介護」が圧倒的に多く、24時間365日、心理的な休息が取れない実態が浮き彫りになっています。
また、厚生労働省『令和3年度 介護保険事業状況報告』等の資料を概観すると、在宅介護を支えるサービスは普及していますが、家族間の心理的摩擦を直接解消する仕組みは十分とはいえません。
特に意識がはっきりしている親への介護は、肉体労働以上に「感情労働」としての側面が強く、親の自尊心と子の義務感が衝突し続けることで、介護者は深刻な精神的疲弊に追い込まれます。
厚生労働省の資料によると、死別後の反応として、深い悲しみのほかに「介護からの解放感や安堵感」を抱くことは、ごく自然で一般的な反応(正常な悲嘆反応)であるとされています。
また同省『終末期がん患者の家族の精神健康に関する研究』等の資料においても、長期間にわたる介護負担から解放された際に生じる心理的変化は、介護者が心身の健康を取り戻すための適応プロセスの一部として捉えられています。
美智子さんが抱いた「自由」への思いは、5年間にわたる介護を継続した結果生じた、健全な心理的反応といえるでしょう。こうした自身の感情を否定せず、事実として受け入れることは、介護者が社会生活や自身の生活を再建するために必要な過程なのです。