老後の資金不安を解消するため、年金の受給開始を遅らせて受給額を増やす「繰下げ受給」を選択する人がいます。しかし、年金の額面が増えることで、75歳以降の「後期高齢者医療制度」における窓口負担割合が引き上げられるケースがあります。受給を5年間遅らせ、月21.3万円の年金を手にしたトシオさん(仮名・75歳)は、病院を受診した際、自身の医療費負担が「2割」になっていることに気づき言葉を失います。年金収入が医療費負担に及ぼす影響とは。
1割負担のはずでは…?繰下げ受給で〈年金月21.3万円〉に増額した75歳男性、病院の会計で知った「医療費の誤算」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「年金の額面ばかりに目を向けた…」繰下げ受給で〈年金収入200万円〉を越えた代償

原因は、トシオさんが年金を繰り下げて増やしたことにありました。医療費の窓口負担は所得に応じて決まりますが、トシオさんの年金収入が基準額の「200万円」を超えてしまったため、負担割合がランクアップしてしまったのです。

 

現在の制度では、75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担は「原則1割」とされています。しかし、トシオさんのような単身世帯で「年金収入が200万円以上」かつ「課税所得が28万円以上」の要件を満たす一定以上の所得者は、負担割合が「2割」に引き上げられる仕組みになっているのです。

 

「月々の薬代や検査代が、1割負担の人の倍になってしまいました。もらえる年金の額面ばかりに目を向けて、医療費のことまでは頭が回っていませんでした」

 

老後生活を安定させるために年金を増やした分が、医療費に消えていく。トシオさんは、医療費のことを考慮せずに年金の繰下げ受給を選択してしまったことを悔やんでいます。

全体の約20%が対象…データから読み解く医療費「窓口負担2割」の実態

トシオさんが直面した「年金を増やしたことで医療費の窓口負担が2割になる」という問題は、制度の基準とデータからも、その影響の大きさがうかがえます。

 

厚生労働省の「後期高齢者医療における窓口負担割合の見直しについて」によると、後期高齢者医療制度における医療費の窓口負担は原則1割ですが、単身世帯で「課税所得が28万円以上かつ年金収入等の合計が200万円以上」となるなどの一定以上の所得がある場合は、2割負担に引き上げられます(現役並み所得者は3割)。この2割負担の対象となるのは「全国の後期高齢者医療の被保険者全体のうち約20%」とされています。

 

トシオさんは繰下げ受給によって年金受給額を21万3,000円(年額約255万円)に増やしたことで、「200万円の壁」を自ら超えて、20%の負担増枠に入り込んでしまったことになります。

 

さらに、内閣府の「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」によると、高齢者が抱える経済的な不安として「自分や家族の医療・介護の費用がかかりすぎること」を挙げる人は全体の36.6%に上ります。高齢期において医療費負担の増加は、多くの人が抱える切実な不安要素であることが読み取れるでしょう。

 

年金の繰下げ受給は、受給額を増やせるというメリットが強調されがちですが、額面が増えても医療費の負担が増えてしまえば、手元に残るお金はかえって減ってしまう可能性すらあります。年金の受け取り時期を検討する際は、単純な増額率だけでなく、将来の医療費の負担割合や介護保険料などの社会保険料がどの段階に該当するのかを含め、総合的に考えることが重要であるといえるでしょう。

 

[参考資料]

厚生労働省「後期高齢者医療における窓口負担割合の見直しについて」

内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」

内閣府「令和7年版高齢社会白書」