(※写真はイメージです/PIXTA)
せわしい都会を離れて「ちょうどいい地方」に移住のはずが…
長年、都内の大手化学メーカーに勤務していた佐藤健一さん(60歳・仮名)。定年退職により手にした退職金は約2,300万円。専業主婦として家庭を支えてきた妻の幸子さん(58歳・仮名)と話し合い、夫婦は数年前から北関東にある町への移住を計画していました。
「毎日、満員の通勤電車で潰されそうになって帰るころには疲労困憊。そんな生活を40年近く続けてきた。会社を辞めたら、静かなところでのんびりと暮らしたいと考えていました」
夫婦で話し合った結果、適度な地方への移住。不便過ぎず、かといって便利過ぎず。絶妙なロケーションを探して見つけた理想ともいえる町に移住することに決めたのです。
都内の自宅は賃貸に出すことにし、移住先での生活費に充てることにしました。売却という選択肢もありましたが、再び東京に戻ってくるかもしれないと、保険を掛けたのです。退職金とコツコツと貯めてきた2,000万円近い預貯金など、合わせて4,500万円近い貯蓄があります。年金を受け取るまでの5年間、取り崩しながらの生活になりますが、贅沢さえしなければ問題はないだろう、というのが二人の結論でした。
移住先は、風光明媚な景観で知られる自治体です。何度か観光で訪れ、役場の移住支援窓口でも丁寧な説明を受けていました。しかし、引越し当日。荷解きを終えて近所の散策に出た二人が目にしたのは、のどかな風景にはあまりに不似合いな、一枚の「看板」でした。
電柱や駐車場のフェンスに掲げられていたのは、赤黒い文字で書かれた「自動車盗難多発中!」、「防犯カメラ作動中」という警告。さらに、少し離れたビニールハウスの入り口には「家畜・農作物盗難厳禁。不審者は即通報」という、都市部では見慣れない物々しい標語が並んでいました。
「目を疑いました。東京の住宅街でも見ないような、切迫した空気感なんです。役場や不動産業者からは『静かで良いところですよ』としか聞いていませんでしたし、実際に観光に来たときにも、その通りだと感じていましたから」
観光で訪れたのは、町の中心部。そこでは、その日見たような警告看板を見かけた記憶はありません。しかし、空き地や農地も目立つ住宅街には、あちらこちらに看板が……。翌日、近隣住民に挨拶へ伺った健一さんは、さらなる事実を知らされます。
「近所の方から、『プリウス乗っているなら気を付けて。外に停めておくなら絶対にハンドルロックと防犯シャッターをつけたほうがいいよ』と言われたんです。この辺りは国道からも近く、高級車や農作物を狙う組織的な窃盗団の通り道になっている、と」
都会にはない日常が、移住先にあることを改めて知ったといいます。