(※写真はイメージです/PIXTA)
自然に囲まれた地方で老後生活をスタート
「老後は自然に囲まれながら、のんびり過ごすのが夢だったんです。妻も楽しそうに話を聞いてくれたので、何事もなく過ごせるかと思っていました……」
景色好男さん(仮名・66歳)は長年勤めた会社を退職後、美しい山々と川を望む地方へ移住しました。退職金と貯金合わせて3,500万円の資産があり、妻の都子さん(仮名・65歳)も年金受給が始まったことで、夫婦合わせて月に30万円の年金が入るため、金銭的な不安はありませんでした。
「現役時代は仕事ばかりだったので、残りの人生は自然のなかで妻と静かに過ごしたいと思ったんです」
都子さんも最初は賛成してくれましたが、新生活にはすぐにほころびが見え始めました。その最大の障壁は、都子さんが車の運転免許を持っていなかったことです。
自宅から最寄りのスーパーまでは車で20分かかります。バスは1日に数本しかなく、買い物に行くには好男さんの運転に頼るしかありませんでした。かつては都市部で、気軽に友人とカフェに集まったり、デパートで買い物を楽しんだりしていた都子さんにとって、自分で自由に動けない環境は想像以上のストレスに。
「夫が釣りやゴルフを楽しんでいるあいだ、私は家でポツンと過ごすばかり。誰とも会話しない日が何日も続き、孤独ってこういうことなのかなと」
地方での生活は車が必須だと悟る
そんなある日、好男さんが庭で作業中に転倒し、足を骨折してしまいます。都子さんは慌てて救急車を呼びましたが、到着までに時間がかかり、搬送先の総合病院も車で40分以上離れた場所にありました。
「もしこれが命にかかわったらと思うと、ぞっとしました。私自身は免許がないから運転できないし、タクシーもすぐには来ません。この先、どちらかが重い病気になったら、どう生きていけばいいのか……」
この一件で精神的に参ってしまった都子さんは、「私だけでも東京に帰ります。このままではおかしくなりそう」と好男さんに告げました。
熟年離婚という言葉が脳裏をよぎり、好男さんは事の重大さに気づきました。自分一人の理想を押しつけ、都子さんの生活の不便さや老後のリスクから目を背けていたのです。
結局、夫婦関係を修復するため、好男さんは移住先の家を売りに出し、都市部の利便性の高い地域へ再移住することを選択しました。