かつては富裕層の象徴だったタワマンも、いまや20代・30代のパワーカップルが「職住近接」を実現するための有力な選択肢となりました。彼らの多くは、都市部の利便性を最大限に活かし、維持費のかかる自家用車をあえて持たない合理性を重視しています。しかし、多くのマンション管理が「駐車場代による収益」を前提に設計されているため、この現代的なライフスタイルと建物の管理構造のあいだには、深刻なギャップが生まれているようです。本記事では、Aさん夫婦の事例とともに、マンションの駐車場の落とし穴について、社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
湾岸タワマンをフルローンで買った「世帯月収75万円+インセンティブ給」の35歳共働き夫婦。同世代に囲まれ、満ち足りた新生活を始めるも…眺望の足元に潜む「機械式駐車場」の落とし穴【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

車がいらない都心生活

Aさん夫婦が購入したタワマンは、息子が通う学校も近く、眺望もよい湾岸エリアでした。車を持たないAさん夫婦には通勤も含め、利便性に優れた場所です。東京都の「自動車利用と環境に関する世論調査」によれば、23区で自動車の所有率は40.9%、30代の男性で30.3%、女性は41.3%となっています。都心部となると、さらに車離れが進んでおり、29.5%と低い割合です。Aさん夫婦も、維持費や駐車場代を考え、「必要なときだけレンタカーやカーシェアを利用すればいい」と考えていました。

 

東京都では、一定規模以上(通常、延べ面積2,000平方メートル超など)のマンション新築時に、「東京都駐車場条例」に基づき駐車場の設置が義務付けられる「附置義務」があります。路上駐車を防ぐ目的で設けられており、中心部では機械式駐車場が多く作られているのです。Aさん夫婦が購入したタワマンにも機械式駐車場がありますが、Aさん夫婦にとって、マンション内の駐車場は当初「自分たちには関係のない設備」だと思っていました。

 

所有者全員で背負う「機械式駐車場」の維持管理コスト

しかし、多くのマンションに設置されている機械式駐車場は、廊下やエレベーターなどと同じく、共用部分とされているケースが少なくありません。「共用部分」とは、区分所有者全員で共有・維持することが前提とされているスペースを指します。たとえ「車を所有してない=駐車場を使っていない」としても、マンションの所有者である限り修理費用の一部を負担する仕組みです。

 

多くのマンション管理組合では機械式駐車場の利用料は管理費会計の収入として計上されます。利用料が100%に近ければ、管理組合の財政は潤いますが、若い世代の車離れが進み、「利用率が下がる=空きが多い」となると、維持管理費だけが大きく膨らんでしまうのです。マンションの管理費等は、駐車場利用料が入ることを前提に組まれていることが多く、利用率が下がると財政が圧迫します。

 

マンションを購入すると、住宅ローンの返済以外に毎月「管理費・修繕積立金」がかかりますが、Aさんが購入したマンションは管理費のなかに駐車場の維持管理費等が含まれていました。足りなくなった管理組合の財政を補うために「管理費の増額」や「修繕積立金の一時金徴収」といった形で、車を持たない住人の家計を直撃することになるのです。

 

満ち足りた新生活を送りはじめたAさん夫婦でしたが、自分たちのマンションの機械式駐車場に目を向けると、空きが多いことに気が付きました。自分たちは使わないけれど、その老朽化した機械のメンテナンス費用は、毎月の管理費の中から確実に引かれていく――。

 

「あまりにも無知でした。これから教育費もかかる時期なのに。自分たちには関係ないと思っていた場所が、実は将来の家計を圧迫することになりうるなんて……」

 

購入時には、住宅ローンの返済額だけでなく、管理規約や駐車場の稼働率、そして長期修繕計画において機械式駐車場がどのように扱われているかを精査する必要があります。憧れの眺望の足元に、住民たちが頭を抱える闇が隠されていないか。若い世代こそ、冷静な視点が求められています。

 

〈参考〉

独立行政法人労働政策研究・研修機構:新規大卒者の賃金
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/shuyo/0303.html

東京都:自動車利用と環境に関する世論調査
https://www.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/tosei/01_full_2

 

 

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP

共同代表