(※写真はイメージです/PIXTA)
「研磨」という名の破壊行為
佐々木さんのような現役世代が陥る罠は、清掃用具の「物理的特性」と「契約上の義務」の乖離にあります。
国土交通省『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』によれば、居住者の義務には「善管注意義務(管理者として注意を払って使用する義務)」が含まれます。ここで重要なのは、「不適切な清掃方法」による損傷は、経年劣化として認められないという点です。
つまり、良かれと思って使った研磨作用のあるスポンジや、素材に合わない強力な薬剤による変色・剥離は、100%居住者の自己負担となる可能性が極めて高いのです。
実際、国民生活センター等の資料によると、引越しシーズンの3月・4月には「清掃による設備の毀損」をめぐるトラブル相談が急増します。特に近年の人工大理石やポリエステル系樹脂のシンク、防曇加工された鏡などは、表面にわずか数ミクロンの保護層があるだけで、一度これが失われると二度と元の質感は戻りません。
退去時のトラブル原因としてよく挙げられるのは、「過度なDIY」や「間違った清掃」です。素人が良かれと思って磨いて傷つけた設備は、プロのハウスクリーニングでも修復不可能であり、結果として「全交換」という最もコストのかかる選択肢を選ばざるを得なくなります。
「手遅れ」になる前に知っておくべきは、今の住宅において「掃除」とは汚れを削り取ることではなく、素材の保護膜をいかに維持するかという点です。数千円の清掃代を惜しんで、月収に匹敵するほどの修繕費を支払う。そんな「負の連鎖」を生まないためには、自分の知識を過信せず、素材の取扱説明書に従うという「守りのメンテナンス」への転換が不可欠です。