サラリーマンにとって、人生の大きな転換点である「定年」。契約形態を変えてそのまま会社で働き続ける人、仕事を辞める人、新天地を求める人――。その後の人生はさまざまですが、なかには現役時代とは異なる形で新たな価値を生み出す人もいます。ある男性のケースを見ていきましょう。
ついにこの日が来た!「退職金2,100万円」の60歳男性、定年後に受け取った「3万円」に震えたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

定年後に見つけた、思わぬ収入源

中堅メーカーで35年近く働いてきた佐藤一郎さん(60歳・仮名)。営業職として長く現場に立ち、役職定年を経て再雇用で勤務していましたが、60歳の定年を機に会社を離れました。退職後、初めて迎えた朝、目覚まし時計は鳴りませんでした。

 

「ついに、この日が来たな……!」

 

それは、単に会社に行かなくていい解放感ではありませんでした。定年後に見つけた、思わぬ収入源。その準備を密かに進めてきた佐藤さんにとって、この日は「第2の人生」という本番の幕開けだったのです。前日、会社から退職金支払通知書を受け取った帰り道、佐藤さんは駅前の銀行に立ち寄りました。書類に記された金額は、約2,100万円。住宅ローンは完済済みで、子どもは独立しています。

 

定年を前に、会社から提示された退職金の見込額は約2,100万円。住宅ローンは完済済みで、子どもは独立しています。一般的に見れば安泰な老後が約束された状況でしたが、佐藤さんの関心は、その大金の「使い道」ではありませんでした。

 

「まとまったお金がある安心感はたしかにありました。でも、それ以上に『会社という看板がなくなった自分に、一体いくらの値打ちがあるんだろうか』ということが、どうしても気になっていたんです」

 

きっかけは数年前、周囲の会話が変わったことでした。再雇用後の給与や年金だけでなく、副業や投資、個人としてのスキルを活かした働き方。同年代が「複数の収入源」を語る姿に刺激を受け、佐藤さんは定年前から「自分の棚卸し」を始めていました。

 

仕事の段取り、顧客との距離感、提案の視点。長年培った“型”を言語化し、知人を介して小規模企業の支援を行うコンサルティング会社と、定年後の参画について事前に打ち合わせを重ねていたのです。「これって、会社の外でも役に立つんじゃないか」。そう確信した佐藤さんは、定年退職の翌週から、業務委託としての活動をスタートさせました。

 

初回のプロジェクトを終え、初めて銀行口座に振り込まれた報酬は「3万円」。退職金の2,100万円に比べれば、数字の上ではわずかな額です。しかし、組織という看板を捨て、自分の名前と経験だけで勝ち取ったその「3万円」を記帳したとき、佐藤さんの指先は微かに震えました。

 

「金額以上に、自分の足で社会と繋がった実感が大きくて。武者震いというか、これまでの会社員人生では味わったことのない感動でした」